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7話「王妃の末路は自業自得なものでした」

 民一人一人の力は小さなもの。しかしそれらが合わさった時には大きな力を発揮するというものだ。塵も積もれば、ではないが、小さく弱い力であっても数集まれば大きな力へと大きなうねりへと変わってゆく。


 ――結果、王妃フロマージュは皆に殺された。


 兵士の中で国民側についた者たちの活躍が大きく、王城内にいたフロマージュは無理矢理外へ引きずり出された。


 ある夕暮れのことである。


 彼女は高飛車に「離しなさい!」とか「こんなことをして許されると思っているの!?」とか言っていた。しかし武装しているわけでなく戦闘能力が高いわけでもない彼女になすすべなどなく。生身の人間となってしまえば彼女も所詮ただの人でしかない。


 そこでフロマージュは民から怒りをぶつけられる。


 ペンキやら卵やらを投げつける者、罵声を浴びせる者、侮辱的な言葉を飛ばす者――フロマージュはもはや奴隷のように何もやり返せぬまま好き放題去れていた。そこに王妃の品格などというものは一切なく。権力という防具を外されたフロマージュはただの雌となった。


「俺にも殴らせろッ」

「おい、落ち着けよ、危ないだろそんな押したら」

「いいからどつかせろやッ」

「落ち着け、順番だろ! 取り敢えず順番が来るの待てって!」


 衣服すら剥ぎ取られたフロマージュ。

 彼女は惨めに暴力の嵐に呑み込まれてゆく。


 近くにいた兵士たちも「まぁ仕方ないわな」と思っている部分があるようで暴力を見て見ぬふりしている。


「あんたのせいだよ! うちの旦那が死んだのは! あんたの悪政のせいでうちの旦那は理不尽に犯罪者認定されちまったんだ! それを苦に自殺した……だからあたいはあんたを絶対に許さない!」


 フロマージュに怒りをぶつけているのは男性だけではなかった。女性も、若い人も年を重ねた人も、皆フロマージュへの怒りを躊躇なくぶつけている。その表情はまるで鬼のよう。しかしそれもまたフロマージュのこれまでの行いが生んだものである。


「そうよ! 貴女はこの国の癌よ!」

「ええ加減にせえよ、って、ずっと言いたかったんや。ほんま滅茶苦茶過ぎて最悪やった。いっつもいっつも贅沢してるしな!」

「それにさぁ、セレスさんをはめたのも酷かったよねぇ」

「悪女は消え失せなさい!」

「この国を悪くばかりするやつは要らんねん!」


 皆から酷い目に遭わされたフロマージュにはもう王妃だった頃の彼女の面影はない。


「ちょっと! 誰か! 棒か何か持ってきて!」

「オッケー持ってくる」

「はいこれ!」

「ありがと! よっしゃ、これでやるわよ!」

「うちにもやらせてや!」

「せやな! 皆でやろ! その方がええわ」

「後であたくしにも~、お願いします~、順番を回してください~」

「もちろんええよ」


 ――こうして王妃フロマージュは民の手により落命したのだった。



 ◆


 

「ということで、王妃フロマージュをこの世から消すことに成功したぞ」


 ある日の朝、父が自室へやって来て報告してくれた。


「え、そうなの!?」

「凄く驚くじゃないか」

「ええ、だって、まさかそんなことになっているだなんて……」


 すぐには理解できず、戸惑いに心が埋め尽くされる。


 そんな私を見てどこか不安げな表情になる父。


「嫌だったか?」


 彼は控えめにそう問った。


「……ううん、そうじゃない。あんな人どうにでもなれ、って、正直思うわ」

「そうか、酷いやつだからな――それも当然だ」

「けどまさかそんなことになっているなんてと思って、それで、すぐには理解できなかったのよ。……ま、そうなったとしても自業自得ね。日頃の行いが悪すぎるわ」

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