5話「本心は伝えておくべきですよね」
絵画の件でついつい一気にいろんなことを喋ってしまい、ヴォルフから真顔で「意外とよく話される方なのですね」と言われてしまった。
恥ずかしい……。
とはいえ、誘っておいて沈黙で迎えるというのも問題だろうから、喋り過ぎている方がまだましかもしれないとも思う。
だって考えてみてほしい。
誘われて言ってみたら何も特に言われずしんとした空気を味わうことになる、なんてことになったらどう思う?
それ自体を悪だとは恐らく思わない。
だとしても気は遣ってしまうだろう。
それにきっと、ある種の気まずさに押し潰されそうになってしまうに違いない。
時に沈黙とは刃となる――その得体のしれない圧に押し潰されそうになるくらいなら、まだ、思っていたより騒がしいという方がましではないだろうか。
「こちらがお礼です」
早速贈り物を手渡そう。
「……これは……フルーツ?」
渡されたかごにかけられていた水色の布を外した瞬間戸惑った顔をするヴォルフ。
「はい! お贈りするために取り寄せてみました!」
張り切って言ってみたのだが。
「なっ。このようなもの、受け取れません」
そんな風に返されてしまう。
もしかしてやらかした!? と不安になる。
「もしかして……フルーツ、お嫌いでしたか?」
「いやそうではなくてですね」
「では何か他に問題が……?」
「高級品ではないですか! このようなフルーツ、受け取れませんよ!」
「ええっ」
高級だから受け取れない、って……どういうこと?
「こんなにお金をかけられても困るということです」
「申し訳ありません、意味が分かりません」
「つまり、自分にはこのような高額なものを受け取る権利はないと言っているのです」
ヴォルフの口から出たのはよく分からない言葉だった。
ただただ首を傾げることしかできない。
それでも時は流れてゆくのだが。
なかなか思い通りには進まないものだ。
「貴方は私を救ってくださいました。だからこそのお礼です。貴方には受け取る権利があると思います」
「結構ですよ、過剰な気遣いは」
「気遣いでなく感謝の気持ち。そう捉えていただけませんか」
「しかし――」
「どうか、お受け取りください」
真っ直ぐに見つめて頼めば、彼は渋々頷いた。
「分かりました。では……いただきます」
無理を言って申し訳ないと思う気持ちもあるが、自分には受け取る権利がないという彼の主張にはどうしても納得できず、それゆえ受け取ってもらえるよう少々圧をかけ過ぎてしまった。
そのことに関して後悔していたのだけれど。
「本日はお誘いありがとうございました、楽しかったです」
帰るヴォルフを見送りに外へ出た時、彼は静かにそう言ってくれて。
「無理なことも色々言ってしまい申し訳ありませんでした」
それによって脳内の暗雲が晴れたことで、素直な気持ちを口にすることができた。
それはまるで雪解けを迎えた新芽のように。
ようやくほぐれた心から本当の気持ちという芽が姿を現し始めたのである。
「いえ、お気になさらず」
「フルーツのことも……迷惑でしたら申し訳ありませんでした」
すると彼はようやく僅かに口角を緩めて。
「いえ、今は嬉しく思っています」
そんな風に返してくれた。
ヴォルフはそっけない人なんだと思っていた。
けれども本当は違うのかも。
ただ表情が分かりづらいだけで、ただ淡々としているだけで、実際には彼もいたって普通の心というものを持っているのかもしれない。
「私も楽しかったです!」
だからこそ、はっきりと思いを言い放った。
「また、会いに来てください。あ、貴方が嫌でなければ、ですけど。でも、その、本当に、今日はとても楽しかったので! いつかまたお会いできましたら嬉しいです!」
王女らしくないかもしれないけれど、これが私の真実の姿だ。