4話「初めての感覚です」
視察の際に助けてくれた男性の名はヴォルフ・エベベマといった。
あの時勇気を出して名前を聞けたことで次に繋がった。
奇跡的なことだがあの後彼と連絡を取ることができたのである。
そして今日、初めて彼を城へ招く。
朝から特別な日だと感じていた。何だかとても不思議な感じだ、心の様子がいつもとは違う。緊張するような、少し胃が痛いような、でもそれでいて浮かれているような感覚もある。様々な色が胸の内で混じり合っている。その色は捉えどころのないものであり、また、初めて経験するものでもあった。
「よく似合っていますよ、セレス様」
「ありがとう」
侍女に褒められたのはラベンダーカラーのドレス。
見た感じ派手なものではないがそこそこ高価な衣服である。
これは何年か前に父が物凄く気に入って無理矢理買ったもので、私の好みとはそれほど一致していないこともあってこれまではあまり着る機会はなかった。いや、そもそも、これを着ようという発想に至らなかったのである。
しかし今日このドレスのことを思い出して、なぜだから分からないけれど、運命に導かれるかのようにこの衣装をまとうことを選んだ。
「もうすぐ到着されます!」
髪は結ってもらった、化粧も軽く施した、そして服装も整えた――きっと大丈夫、綺麗になっているはず。
「ねぇ、私、変なところない?」
「とてもお美しいですよ」
「そう。なら良かった、安心したわ。ありがとう」
いよいよヴォルフと対面。
その瞬間が近づくにつれて心臓の鳴りが大きくなってくる。
――こういう時こそ落ち着こう、深呼吸。
そして彼と向かい合う。
「来てくださってありがとうございます、ヴォルフさん」
挨拶は真っ直ぐに。
「お招きありがとうございました」
彼もまたそこそこ高級そうな衣服をまとっていた。
デザインとしてはシンプルなものなのだがおしゃれさを感じさせる服であり、生地にも高級感がある。
「ではこちらへどうぞ」
「はい」
彼は一礼すると私について歩き出す。
案内するだけでも緊張する……。
そういえば、私の知り合いがここへ来るのはいつ以来だろう? 近しい友人は呼んだことはあったけれど。それを除くと、もうかなりずっとそういうことはしていない。しかも異性となればなおさら。最後に異性を城へ招いたのはいつだっただろうか? もう思い出せはしない。
「こちらの部屋で、お話しできればと」
言えば、彼は室内を軽く見回す。
「……素敵な部屋ですね」
よく分からない沈黙の後、ヴォルフは感想をぽそりとこぼした。
「そう言っていただけますと嬉しいです」
さらに彼は。
「特にあの絵画など」
感想を述べることを続けた。
「絵画? えっ、もしかして、あの『恩人の愛人が来賓で来て修羅場』という絵画のことですか?」
「……凄いタイトル」
「あれ、実は私のお気に入りだったんです。幼い頃気に入っていて。タイトルは少々変わっていますけど、とっても素敵な絵ですよね!」