2話「母国へ帰ります」
私は母国へ帰った。
「お帰りなさい、災難だったわねセレス……」
「ただいま母さん」
「我が娘を陥れ追い出すとは……許せん、許さんぞおぉぉぉ!」
「落ち着いて父さん」
両親は事情を知っていたので温かく迎えてくれた。
城内は懐かしい匂いがする。
やはりここはとても愛おしい。
空気、匂い、目に映るものすべて――ありとあらゆる要素が私の帰還を祝ってくれているかのようだ。
生まれ育った地、生まれ育った場所、それはこんなにも愛おしいものなのか。
……恥ずかしいことだが、今になってそのことに気がついた。
「この後のことはこちらに任せてくれ」
「ありがとう父さん。……ごめんね、ややこしいことになって」
「いいや、いいんだ。我が娘を悲しませた輩には必ずや罰を、お前は心配するな」
「うん、嬉しいありがとう」
父は既に血の気が多めになっていた。
一連の流れを知って怒りの色を強めているのだろう。
「セレス、こっちへおいで。お茶して休みましょう」
「母さん……」
「話があるなら聞くわよ? 母に頼って?」
「……嬉しい、ありがとう」
母はとても優しく、綿のように柔らかな笑みでそっと受け入れてくれる。
些細なことだが大きな救いだ。
「皆大体事情は知っているから、気にしなくて大丈夫よ」
「あ、そうなの?」
どうやら、ここまでの流れは皆に知れわたっているようだ。
けれどもまぁその方が効率的かもしれない。
ばらばらと何回にも分けて説明するのも手間がかかるし。
起こってしまったことは変えられないのだ、敢えて隠す必要もあるまい――実際には私に非はないのだし。
「迷いはしたのだけれど……伝えておくことにしたの。その方が皆でセレスの心をフォローしていけるかなって。……嫌だったらごめんなさいね」
「あ、ううん、嫌じゃない! ありがとう、助かる!」
「なら良かったわ」
「じゃあ隠さなくていいね?」
「ええ。言いたくないことは言わなくていいけれど言いたいことがあれば言っても大丈夫よ。貴女の心が第一だから」
エリッツとのことは災難であった。
けれども私には心強い味方がいる。
親とか周りの人たちとか。
だから、きっと大丈夫、そう思える。
傷ついてもすべてを失ったわけではないからじきに立ち上がれることだろう。今はただじっと時の経過を待つのみ。変に騒ぐでもなく、絶望するでもなく、淡々と息をしていればいい。
◆
婚約破棄から一週間。
城内の一室にて顔を合わせている女性が二人。
巨大なかつらをかぶりパープルの派手なドレスを着ているのはフロマージュ、フリルの多いローズピンクのドレスを着て全部の指に大きな宝石の指輪をはめているのがエヴァーニカ。
「あーあ! さいっこうだったわねぇ、セレスが国外退去になって。あーすっきりしたわぁ! あっはっはははっ!」
「大成功でしたわね、お母様! これであいつは二度とこの国に顔を出せない……おーほっほっほほ! たまらないですわね、お母様!」
二人は嘘によって自分たちが居住する地からセレスを追い出せたことを大層喜んでいた。
しかし浮かれ過ぎていたために気づけなかった――その姿を撮影魔法によって記録されてしまっていることに。
セレスの母国ペスカトーレより送り込まれた人間がさりげなくその様子を撮影していたのだ。
「これでまた好き放題自由にできそうだわ。あーあ、さいっこう。良かった良かった、たまらなぁーい。あーんな正義感の強い女、ここには必要ないのよ。だってここはあたくしたちが贅沢するためにあるんだものぉ」
「その通りですわ、お母様!」
「エヴァーニカ、これからも二人で仲良く搾り取った金で豪遊しましょうね」
「ええもちろん! 搾り取ったものは使わなきゃ損ですわ! せっかくのお金ですもの、使って差し上げるのが礼儀というものですわよね、お母様っ」




