11話「すべては終わり、そして」
ある爽やかな晴れの日の朝、寝不足のエリッツは何を考えたのか散歩に出掛け、その最中に国民側の兵によって捕えられた。
「い、嫌だ……嫌だよ、あんな……エヴァーニカたち、みたいな……あんな目に、遭う、のは……う、ううっ、嫌……嫌だぁ……お、お願いだ、離して、解放し……て、くれ、よ……」
拘束されてからというもの、エリッツはずっと己の行く末を案じ恐れ泣いていた。
これまで捕らえられた王族の中で彼は一番弱気かつ情けなかった。
しかし彼の対して怨みを抱く者も同然いて、そういった者たちからすれば彼を痛めつけることは何よりもの喜びであって。
それゆえ、エリッツもまた、酷い目に遭わされることとなった。
「よーし、ひきずるぞ!」
「準備しろ!」
「早くやれ!」
「こっちのロープと繋いで! ほら、早く!」
エリッツは半裸にされ馬車に繋がれて、奴隷のようにゆっくりひきずられながら王都を一周させられた。その姿はあまりにもみっともないものであり、彼が何者か知らなければ誰も王子だとは思わないだろう、というくらい情けないものであった。
「ぎゃはは! なっさけねえなぁ、王子!」
「面影もないわね」
「これだよこれ。威張り散らしてた馬鹿にはこういうのがお似合いなんだ」
「ざまぁ~」
その光景を見に来ているものたちは誰も「エリッツが可哀想」とは言わなかった。むしろ、彼が滅茶苦茶な目に遭わされているところを見ることを積極的に楽しんでいるくらいであった。
――その後エリッツはボロボロになった状態で処刑された。
その日、国王は、王族による統治を終わりとする声明を出した。
これ以上王族が残酷な方法で殺されてはいけない。
そう考えた国王による宣言。
それにより残る王族らは一時的に拘束された後に解放されたが、財産の多くや権力を剥ぎ取られることとなった。
身内をまともに管理せず、また、国をきちんと治めてこなかった責任がある――ということで、国王は後に密かに処刑された。
が、それ以外の王族は死までは求められなかった。
こうしてフォンド王国には終焉が訪れたのであった。
◆
「娘よ、すべて終わったようだぞ」
その日父が急に自室へやって来た。
「どうしたの? 父さん、嬉しそうな顔をして」
「フォンド王国の件だ」
「ええそれね。で、終わったって……どういうこと?」
すぐには理解が追いつかず、問えば。
「王家が潰された」
父は低めの声で答えた。
「そんな……!」
自然に漏れてしまう驚きの声。
「え、じゃあ、フォンド家の人たちは」
「悪しきフロマージュエヴァーニカ、そしてエリッツ。彼らは片付いた。そして国王も処刑されたようだな。残りの王族たちは国外追放となったようだ」
「えええ……」
「かなり驚いているようだな」
「当たり前よ……驚かない理由がないわ……」
でも、可哀想に、とは思わない。
それにそんな風に思うことはしたくない。
◆
あれから数年、私はヴォルフと結ばれた。
意外だろうか?
いや、私だってそう思っているのだ。
まだ夢みたい。
まだ偽りの世界にいるみたい。
でも私たちは確かに夫婦となったのである。
彼と結婚しても生まれ育ったこの国にいられる。そういう意味では他国の者との結婚より良かったと思う。人はやはり生まれ育った地にいるのが一番だ、今改めて強くそう感じている。
私はこの道を行こう。
ヴォルフと共に歩む、この道を。
◆終わり◆