10話「壮絶な最期、この世とお別れみたいです」
あれから少しして父親からフォンド王国王女エヴァーニカの訃報を聞いた。
民側についた兵の中でも地位のあった者の手によって寝込みを襲われ城から引きずり出された彼女は、すっぴんの酷い顔を皆に晒すこととなり泣いてしまったそう。
しかしその程度はまだ可愛らしいもので。
本当の地獄はそこから。
エヴァーニカは兵士の手により国民らの前に寝巻きのまま出され、そこで皆から袋叩きにされたそうだ。
何でも彼女は私の件以外でも身勝手な嘘をついていたようで、それによる被害者が多くいたようだ。
中には嘘のせいで処刑までされてしまった者もいたとか。
近しい人に被害者がいた人からすれば彼女は悪魔みたいなもの、つまり復讐の対象だ。
多くの者たちから怨みの感情を爆発させられたまだ若い娘エヴァーニカ。
彼女は散々殴る蹴るされた後国内で一番大規模な公園である王都中央公園へと連れていかれ、そこで棒にくくりつけられたらしい。
そして公開処刑ならぬ公開罰が始まる。
初日は泥やら何やらを全身に浴びせられる罰、二日目は臭い物体を投げつけられる罰、そして三日目には木の棒で叩かれる罰――それらによりエヴァーニカの姿は原形をとどめないほど変形してしまったそう。
で、その後は罵声を浴びせられながら鞭打ちされ、その果てに彼女は絶命したのだそうだ。
彼女の最期は壮絶なものだったみたいだ。
私を貶めた者は着実に減ってゆく。
「そうですか、それで、エヴァーニカ王女は亡くなられたと」
「そうなんですよ」
一方で、私はというと今日ものんびり生活している。
今はヴォルフとサンドイッチを食べつつ喋っているところだ。
「なかなか凄まじい最期みたいですね、その感じだと……」
「はい」
「それを考えれば、やはりこの国はまだ平和な方ですね」
「私もこれでも王女、エヴァーニカ王女みたいにならないようにしないと……!」
「いやいやそれはないですよ、大丈夫ですって」
たまにゆっくりするくらいは……いいよね?
「今朝も忙しくされてたそうじゃないですか」
「あ、はい。ちょっとだけですけど。書類の手続きがいくつも溜まっていまして」
「整理みたいなものですか?」
「そうですね、たとえば、はんこを押したりとか」
「そんなことまで!?」
思っていたより驚かれてしまった。
でもまぁそうか、まだ王女の身ではんこを押すなんて意外と言われても仕方ないか。
けれど王女であっても意外と仕事はあるものなのだ。
しかも、視察や式典といった華やかなものばかりではない。整理整頓やら手続きやらはんこ押しやら、無礼承知で言うならいわゆる『雑用』みたいな仕事も多いのだ。
「これからも少しずつ頑張ります!」
「やる気満々ですね」
「私は人のために生きなければ! ……残酷な処刑とか嫌ですし」
「あはは、大丈夫ですよ。貴女とエヴァーニカ王女ではきっと根本的に違っていると思うので」
◆
その頃フォンド王国では。
「や、やばい……これは、ほんとに、やばい……国民ガチで怒ってる……ひ、ひ、ひえぇ……やばい、こ、殺、される……」
王子エリッツが激しく怒る国民に怯えていた。
「まずい……い、嫌だ、嫌なん、だ……こん、な、こんなことになる……なん、て……うう、怖い怖い怖い……無理無理無理無理……嫌、だ、嫌だ」
エリッツはここのところずっと悪夢にうなされている。
起きている間ずっと引きずり出され殺されることを恐れ考えているからか、寝ていてもなお心休まらないのだ。
また、そもそもゆっくりと眠ることもできないような状態で。
一度眠りについても悪夢のせいですぐに起きてしまい、次もう一度寝ようとすると恐怖が込み上げて眠れなくなる――最近の彼はそんなことばかりを繰り返している。