1話「いきなりですが、危機的状況です」
私は一国の王女であり、また、王子エリッツ・フォンドの婚約者だ。
しかしその状況は今まさに終わりを告げようとしている。
先日まさかの出来事があって。
それ以降私の立場はとんでもなく危ういものになってしまったのだ。
「セレス・ペスカトーレ! お前の悪事、聞いたぞ! 我が父を裏で殺めようとしていたそうだな!? 国を乗っ取るといわんばかりの最低な行為だ……よって! 婚約は破棄とするッ!!」
――そう、私はフォンド王国の国王を殺そうとしたと罪をでっちあげられてしまっているのだ。
もちろん、私は何もしていない。そんなつもりもない。そもそも婚約者の父親を殺めて何になるというのか。王女という身でそんなリスクばかりが大きい行為に至ろうだなんて考えるはずもないのだ。
にもかかわらず私は国王暗殺を試みたと言われてしまっている。
主張しているのはエリッツの母親である王妃フロマージュとその子にしてエリッツの妹である王女エヴァーニカだ。
二人の主張により私は犯罪者となりかけている。
……なんという危機的な状況か、これは。
「エリッツ様、私は殺めようなどしておりません」
「何だと?」
「そのようなお話は嘘です」
「はぁ? これはなぁ! 母と妹が言ってることだ! 嘘なわけがないだろう!」
「勘違いではないでしょうか、私は絶対にそのようなことはしておりません」
「二人が気づいて防いだだけだろうが!」
婚約破棄だけなら黙ってもいられたかもしれない。けれども国王殺しの罪まで押しつけられては私としても黙ってはいられないのだ。王女である私がそのようなことをした、となれば、母国にも迷惑がかかってしまう。
だからこそ、真実をはっきりさせなくては。
「だがな、実際先日、刺客が確保されたんだ。父の寝室へ行こうとしていた怪しい男が、な。で、そいつは吐いた――王女セレスより命ぜられて暗殺しようとしたのだ、と」
滅茶苦茶だ。
その程度仕組めるではないか。
「だとしたらその証言が嘘です」
「言い逃れはできないぞ!」
「まったく知らないのです。それは事実です。何ならその刺客が私の手の者であるということを証明してみてください」
「生意気な! いい加減にしろよ! まぁいい、お前はもう追放だ」
何とか話を聞いてもらおうとしたのだがどうしようもなくて、私はそのまま婚約破棄され城から追放されてしまった。
城を出る時、挑発的に言葉をかけてきたフロマージュとエヴァーニカの顔は絶対に忘れない――罪なき者を陥れた二人にはいずれ天罰が下るだろう。




