2-9 始まりの合図 ⑪
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二十時二十五分。
スケートリンク付近。
「――全く、どこのどいつが許可したんだか」
アクア方面から上がる花火を眺めながら、呆れた様子でアオイが呟く。
ベンチの上で脚を組み、疲れた体をだらしなく反らせて、アオイは空を見上げている。
アナザーは消え、ハンターは取り逃がした。しかし、リリカに続いてヒカルと連絡が取れたこともあって、アオイの心は晴れている。一般客や自分の部下にも、被害は出ていない。
「お疲れ様です」
温かい紅茶の入ったカップを手に、淡路が現れた。
淡路はアオイにカップを手渡すと、隣に腰を下ろす。淡路はアオイ以上に走りまわっていたにも関わらず、疲れている様子は見られない。
「この後、アイドルのライブもやるそうですよ。城ヶ島が、喜んでました」
目に浮かぶようだと、アオイは思った。
「今、一課の連中が、アストロ、ダイナソーの両エリア内を捜索してます。どうせ、なにも出ないと思いますけどね。マスコミやら迷惑客やらについても、あちらにお任せでいいですね?」
アオイは、頷いて答えた。あれだけ蔑ろにされたのだから、多少の面倒事を押し付けても罰は当たらないだろうと考えたのだ。
あっと、淡路がなにか思い出した様子で声をあげた。
しかし、直ぐに思い直した様子で、淡路は安心したように紅茶を口に運ぶ。
「やらかした?」
「……と、思ったんですけどね。もう、回収不要でした」
薬莢のことだと、淡路は付け足した。
仕事のし過ぎだと、アオイは笑う。
一段落ついたら、ヒカルとリリカを家に送るとアオイは伝えた。二人には、駐車場で合流するように伝えてある。
「日付が、変わりませんか?」
「かもね。でも、あんなことの後に、二人だけで電車で帰すのも怖いし。……あっちで色々やってくれるんじゃない? 今更、こっちに投げてくるような恥知らずでもないでしょ」
アオイの言葉には、一課の高田課長への皮肉がこれでもかと込められている。
淡路は横顔で笑って、それから空を見上げた。花火が打ち上がっては消え、打ち上がっては消えていく度に、空に散らばっていく光が星のようだと淡路は思う。
アオイは、チラリと横目で淡路の横顔を眺める。そうして、右手で髪を耳に掛けた。
「そういえば、家、見つかったの? 探してなかった?」
アオイの顔は、空に向けられている。
随分と急だなと、淡路はアオイの言葉を不思議に思った。
「いやあ……それが、水回りの欠陥とやらで、ダメになりまして。この際、マンスリーマンションか、しばらくはホテルでもいいかな、と」
空を見上げたまま、淡路は答えた。その言葉の中には、小さな嘘が混じっていた。
「……空いてるけど? 一部屋」
耳を疑って、淡路は思わずアオイの方へ目を向ける。
アオイは変わらず、空を眺めていた。
そんなアオイの耳に、淡路は自分が贈ったピアスを見つける。
「……条件は、なんですか?」
淡路の理解の速さを好ましく思って、アオイは口元に笑みを浮かべた。
花火を眺めながら、アオイの脳裏には、林の中で会った白衣の男の表情が浮かんでいる。
空気を震わす、花火の音。
アオイにはそれが、なにかの始まりを告げているように感じられていた。




