2-8 夢の終わり ⑤
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十七時八分。
抵抗できない程の力で体を押さえつけられたまま、インドラ――北上は、体を地面へと叩き付けられた。
北上は素早く立ち上がり、気配のする方へ構えをとる。
比較的避難が進んでいる場所なのか、あたりに人の姿はない。
シルバーのスーツを身につけた少年――ヘカトンケイルは、少し離れた実物大の恐竜模型の間に立っていた。
「随分と、手荒だ」
北上は、ヘカトンケイルの様子が以前とは違うように思った。
「……あなたは、僕の狩りの対象じゃない。手を出さないでいて貰えれば、敵対するつもりはありません」
北上はヘカトンケイルの言葉を耳にして、彼がキツネと謎の女との同士討ちを狙っているのだと気付いた。
「以前の君は、もっと真っすぐに見えた」
北上は、構えを解いた。ヘカトンケイルから、敵意は感じられない。北上の目に映るヘカトンケイルは、逡巡しているように見える。
「聞け。俺は、誰とも敵対するつもりはない。客が心配だ。戻るべきだ」
ヘカトンケイルが俯くのを見て、北上はアストロエリアの方角へと顔を向けた。キツネと女が闘っているらしい場所から、悲鳴がここまで届いている。
「――それでも、僕は、勝って帰らなくちゃいけない」
「……少年?」
呼びかけた北上の視界に、宙を飛ぶ恐竜模型が映った。ヘカトンケイルが、傍にあった模型を片手で引き抜いて投げたのだ。
北上が避けると、模型は地面に激突して、辺りには無残にもげた恐竜の首や手が散らばった。
「お願いですから、寝ていてください……!」
北上は、声の方へ目を向けた。そこでは巨大な塊が、地面からせり上がるように動いている。首長竜の頭と尻尾を付けた、船の形をしたアトラクションだ。それは凄まじい揺れと共に固定していた鎖を断ち切り、ポールを片端から倒して、地面から離れていく。
北上が状況を理解した時、ヘカトンケイルの姿は宙にあった。彼の伸びた両腕の先には、持ち上げられた巨大な船がある。
(……この眠りは、永遠じゃないか?)
北上は、迫ってくる影の下で悠長な事を思う。
一瞬の間。
そうして、ブラックアウト。
「お前、本当に、もう帰って寝た方がいいぞ?」
耳に蘇る、南城の声。
本当にその通りだと、北上は心の底から同意した。




