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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
Human after all
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2-8 夢の終わり ②



――約二時間前のこと。


「――ということで、スケートリンク内にデコイを配置。ハンターを誘き寄せ、確保します」


 皆はスマートフォンやタブレットで資料を確認しながら、アオイの説明に耳を傾けていた。しかし説明が進むにつれ、淡路、能登以外のメンバーの顔色は青ざめていく。


「と、東條さん……?」


 国後が手を挙げて、アオイに質問があると言った。


「あの、これ、デコイは、本当に東條さんが? そんなの、やばくないですか?」


「そうっすよ。それに体型だけなら、国後の方が近くないっすか?」


 佐渡も口を挟んだが、アオイは頑なに首を縦に振らない。


「私が言い出したことだから、私がやります」


「えぇ。いや、でも、危ないし……」


 国後は、周囲のメンバーにも同意を求める。それに佐渡、城ヶ島は首を縦に振って応えたが、能登は眠そうに目を擦っているばかりで、淡路に至っては目を合わせようとすらしない。


 アオイは大丈夫だと短く答えて、直ぐに説明に戻った。


 アドベンチャーニューワールドの遊園地「テラ」は大きく三つのエリアに別れている。


 童話をモチーフにしたアトラクションが並ぶ「メルヘンエリア」、恐竜や冒険をモチーフにした「ダイナソーエリア」、近未来の世界をモチーフにした「アストロエリア」だ。


 メルヘンエリアとダイナソーエリアの間には相当な広さの森があり、その中の一部はレストランやデイキャンプエリアとなっている。


 ダイナソーエリアからアストロエリアの間にはかなりの高低差があり、それを活かしたロープウェイなどが設置されている。そこは一部が崖になっている他、管理小屋などもあるため、一般客が立ち入り禁止の場所も多い。


 遊園地である「テラ」と巨大な水族館である「アクア」との間にはプール施設があり、十二月から二月末まではスケートリンクとして営業している。


 スケートリンクは通常であれば営業期間だが、現在は改装工事と重なったため営業停止中だ。


 「テラ」と「アクア」の間には巨大な連絡通路があり、それは中央のエントランスエリアとも繋がっていた。


 アオイはスケートリンクが営業していない事に着目し、ここにハンターを誘きだせないかと考えたのだ。


 好都合な事に、スケートリンクはエントランスから最も遠くに位置している。例えここで何かが起こっても、一般客が避難するまでの時間は稼ぐことが出来るだろう。


「デコイの配置は、スケートリンク中央。今回は、特務課、一課合同で処理にあたります」


 アオイは、一課の四分の一が特務課と共にスケートリンク内でハンターを待ち構え、残りはパーク内の各所で警備を行うと説明した。


「東條さん。今回の指揮命令については……」


 佐渡の質問には、アオイが目を逸らして応える。それを見た国後が、興奮した様子で席を立ち上がって抗議した。


「待ってくださいよ! 嘘ですよね? アイツらの下っ端扱いなんか、冗談じゃない!」


「私達は……一課の高田課長の指示で動きます」


「東條さん!」


「国後。課長からの指示でもあるの。分かって」


 アオイは国後を宥めるように言ったが、本人も決して納得している訳ではなかった。


 国後は尚も言葉を続けようとしたが、テーブルの下で佐渡に靴を蹴られ、彼は辛うじて言葉を飲み込んだ。


「以上。各自、準備急いで」


 指示を終えると、アオイは準備のために皆から離れていく。


 佐渡はアオイの後姿を見て、溜息を漏らした。だが彼の思考は、既に自分のやるべき仕事へと向いている。


 その隣では国後が、アオイから目を背けていた。その表情は、アオイの身を案じる気持ちと、彼女に不満をぶつけてしまった自分の幼さを後悔する気持ちとで曇っている。


 アオイと国後とを交互に見やって、城ヶ島が淡路の名前を呼んだ。城ヶ島は打合せの最中に淡路の様子を見て、彼がなんらかの事情を知っていると気付いたのだった。


 名前を呼ばれた淡路は、城ヶ島の口調で彼がなにを言わんとしているかを理解する。城ヶ島は、アオイを説得しろと言っているのだ。


 城ヶ島の隣では能登が、皆の様子に首を傾げている。彼はまだ、話に追いついていない。


 佐渡も国後も淡路の方を見てはいないが、彼らの背中や横顔は城ヶ島と同じことを求めていた。上司を危険に晒すわけにはいかないと、彼らは同じことを考えている。


 溜息、一つ。淡路は、無言で首を横に振った。

 


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