2-7 FACE ⑦
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十三時十五分。
遊園地である「テラ」のジューススタンドの傍に腰を降ろし、佐渡、国後、城ヶ島、淡路は仲間が叱られているのを眺めていた。
少し離れたベンチの上には能登が背中を丸めてションボリとしていて、彼の前には腰に手を当てて仁王立ちするアオイの姿がある。
皆からアオイの表情は見えないが、能登の顔を見れば、彼が何を言われているのかは容易に想像ができた。
「ありゃあ、『こら! 能登! 何時まで寝てんのよ。仕事でしょ!』だな」
佐渡が声色を変えて、アオイのセリフを読み上げる。
佐渡の物まねがツボに入ったのか、国後がパインジュースを吹き出した。
国後の隣では城ヶ島が、「リリカル☆パレード!」とのコラボメニューの写真撮影に忙しい。特典のコースターとストロータグを限定ドリンクと一緒の写真に収めたいのだが、構図がイマイチだ。
能登は申し訳なさそうに、何度も頭を下げている。二メートル超の巨人も、アオイに叱られている時は小人のようだ。
能登は、このメンバーでは唯一、警察学校を卒業している。正義感も強く、志も高く、心優しい能登は、高校卒業後に幼少期より憧れの警察官を目指した。彼は体が大きく、そして力も強かったので、誰かのために体を張る仕事は天職だと考えていたのだ。
だがその力は、強すぎてしまった。能登の意思とは関係なく、体は触れるもの全てを傷つけてしまう。そしてそれは、組織や社会に馴染もうとする彼の努力をも簡単に断ち切ってしまった。
やがて能登は、いつしかモンスターのような扱いを受けるようになった。どこへ配属されても上手く馴染めず、根っからの寝坊助ぶりもあって、部署をたらいまわしにされるうちに、心にも傷を負ってしまった。
そんな彼を最後に受けいれたのが、特務課とアオイだったのだ。
「お、『まあ、私も言いすぎた。とにかく、期待してるんだからね』のターンだ」
能登の表情が明るくなったのを見て、また佐渡がアオイの声色を真似て見せた。
国後は佐渡の物まねが気に入った様子で、また笑っている。
アオイがクルリと振り返って、四人の元に戻ってきた。
その後ろでは能登が、大欠伸をしている。そして彼が再び横になっていくのを、四人は笑いを堪えて見ていた。
「どう? 返答、変わらず?」
「ご想像の通りっすよ。イベントも含めて決行予定。二十時には、花火も上がるそうで」
佐渡が立ち上がり席を譲ろうとするのを、アオイがさり気なく手で制した。佐渡は上司を立たせて自分が座っている状況に居心地の悪さを感じているのだが、アオイは頭痛のこともあって今は立っている方が楽だった。
「東條さん。マスコミも野次馬も凄い数なんですけど。誘拐事件に関する報道規制も解除されちゃってるってことですか? あと、電波障害ウザいですよお」
国後は、一課の怠慢ではないかと訴えている。
城ヶ島はスマートフォンで撮影した写真を確認しながら、周辺で小競り合いが増えていると片手間に報告した。酒が入った大学生グループや動画配信を収入源にしている人間達が、要らぬ仕事を増やしている。
アオイは、それぞれの部下の報告を真剣な表情で受け止めていた。
「謎の女とハンターとの出現場所の特定は?」
アオイの問いには、佐渡が首を横に振って答える。
「無理っす。情報が少なすぎますね。向島さんからも、同様の回答を貰ってます」
「各エリアに配置するにしても、人員が足りなさすぎるか……」
アオイはパークの地図を眺めて、それから一課と連絡を取ると言い残し、ジューススタンドを離れた。
「引き続き、二人一組で巡回よろしく」
了解と返事して、佐渡、国後、城ヶ島は能登の元へ走り寄る。先ずは、彼を起こさなくてはならない。
淡路は、少し遅れてアオイに合流した。
「頭痛、どうですか?」
「最悪。頭、割れそう」
それでも部下の前では弱ったところを見せないアオイを、淡路は流石だと思った。
「アドベンチャーニューワールド、十七時。……これだけで、どうして他のハンターは場所が分かるの?」
「動画には、他に暗号のようなものは無かったそうですが」
「そう。だから気になってる。そもそも彼らは、普段からどうやってアナザーを探知しているのかって話」
「彼らの言う、『核』とやらを察知しているのでは?」
淡路は彼が資料を盗み見たことが分かる発言をしたが、アオイはそれに気付いても咎めることはしなかった。
「そうかもしれない。……向こうの集合を待つんじゃなくて、向こうからこっちに集合させる方法があれば……」
ふと、アオイの目が、土産物の積まれたスタンドを捉えた。
アドベンチャーニューワールドのメインキャラクターであるペンギンの帽子や、カチューシャ。マフラーなどのグッズや、子供用のお面が売っている。
「淡路。ちょっと、頼まれてくれる?」
アオイが見ている方に気付いて、淡路は絶句した。アオイが何を考えているか察したからだ。
「やれるだけ、やってみたいの」
アオイが笑顔を見せたので、淡路は仕方なく頷いた。




