表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
Human after all

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/408

2-7 FACE ①

 七、FACE


 二〇×一年 十二月 二十五日 土曜日


 七時二十分。


「それで?」


 隣で化粧していたアオイが、鏡越しにヒカルを見ている。


「……なにが?」


 歯ブラシを咥えたままヒカルが返すと、アオイは呆れたような顔を見せた。分かっている癖にと、彼女の目はヒカルを咎めている。


 ブラシで仕上げのパウダーを頬や額に乗せると、アオイはメイク道具を片付けて前髪を直した。


 その間ヒカルは歯を磨いていたが、姉の出発時刻が近づいていることは分かっていたので、やがて観念したように口を開く。


「ちょっと前に喧嘩したけど、でも、もうそれは大丈夫だから」


 結局、ヒカルはリリカに理由を説明することは出来なかったが、リリカもヒカルに理由を尋ねることはしなくなった。


 今日までに二人は何度も顔を合わせているが、普段通りに過ごせている。ただ、クリスマスという単語を見たり聞いたりした時にだけ、彼らの間には気まずい空気が流れたのだった。


 ここしばらく、アオイはそんな二人を見守ってきた。一度だけヒカルに理由を尋ねようとしたことがあったが、それは淡路に止められている。見守るのも愛だなんだとそれらしいことを言われ、アオイは珍しく淡路に同意したのだ。

 

 ヒカルも、十六歳。自分の気持ちは、自分で伝える歳だ。


「今日は、帰りが遅くなるかも。ヒカルも出かけるんでしょう? 人出も多いし、酔っ払いとかも居ると思うから、あまり遅くならないようにしてね。戸締り、忘れないで」


「うん。アオ姉も、気を付けて。心配だよ」


 ヒカルの言葉が嬉しくなり、アオイは彼の右肩に頭を寄せて甘えた。家族の存在が、自分を支えてくれている。


「大丈夫、任せといて。絶対、帰ってくるからね」


 アオイが自分に言い聞かせるように言ったその言葉に、ヒカルは頷いて応えた。そしてヒカル自身も、同じ言葉を心の中で強く誓った。謎の女とキツネを狩り、必ず家に戻るのだ。


 玄関のドアが開く音がして、淡路の声が聞こえる。アオイを迎えに来たのだ。


 ヒカルは急いで口をすすぎ、アオイはリップやピアスのチェックをして、二人はリビングに向かう。


 淡路はソファーに腰かけて、アオイのことを待っていた。


「おはようございます。私服も綺麗ですね」


「そういうのは要らないから。ねえ、無線、受け取ってる?」


 アオイと淡路が仕事の打合せをしているのを遠くに聞きながら、ヒカルはキッチンへ向かう。


 アオイは起床後に手早く朝食を済ませていて、淡路は先ほど来たばかり。リリカは、今朝は東條家に来ていない。これが一人きりの食事だということに気付くと、ヒカルは途端に用意するのが面倒になってしまった。


 冷蔵庫から取り出した牛乳を口へ流し込むと、それだけで朝食を終えたような気分になる。胃になにも入れないよりはマシだと、ヒカルは自分に言い聞かせた。


 そうこうしているうちにアオイの出発の時間になり、ヒカルは玄関先へ二人を見送りに出た。


 二人は珍しく私服姿で、事前に仕事だと知らされていなければ、クリスマスデートへ出かける恋人同士に見えたかもしれない。


 玄関の扉から二人を見送った後、ヒカルの家の隣のドアが開いた音がした。ヒカルが開いたままのドアを閉められずにいると、その前をリリカが通りかかる。


 リリカはヒカルに挨拶を交わして、友達と出かけるのだと言った。


 お気に入りのコートやブーツで着飾ったリリカを見て、ヒカルはそれに何かコメントしようとしたが、直ぐにそれは余計なことだろうと思い直す。


 ヒカルが「いってらっしゃい」と笑顔で言うと、少し間を置いて、リリカが返事をした。彼女は顔を見せずに、速足で去っていく。


 ドアを閉じた後も、ヒカルは暫くドアの前を動けずにいた。クリスマスの朝に一人きりでいることは初めてだと気付いて、ヒカルは寂しさを覚えていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ