2-5 あなたは最高 ①
五、あなたは最高
ヒカルが目を覚ました時、彼の体は知らない部屋のベッドの上にあった。上半身を起こし上げて、ヒカルの目は直ぐにリリカの姿を捉える。
リリカはベッド脇の椅子に腰かけて、スマートフォンを握りしめたまま、ヒカルの足元で伏すようにして眠っていた。リリカの服は所々が砂埃や土で汚れているが、彼女に目立った怪我はないようだ。
すっかり安堵して、ヒカルはベッドの枠にもたれるようにして部屋の中を見回した。
時計は、二十時を過ぎたところ。
個室の中は薄暗く、少し寒い。ここは病院のようだ。
ベッドサイドテーブルには、酷く汚れたスマートフォンが置かれている。その横には、ヒカルが身に着けていた衣服が畳んで積まれていた。
洋服の上にメモが置かれているのを見つけて、ヒカルはそれを手に取った。それは病院の職員がアオイからの伝言を書き留めたもので、迎えの時刻が書かれている。
ヒカルは、胸に手をあてた。そこに伝わってくる鼓動は、彼が確かに今を生きていることを証明している。
ヒカルは無我夢中だったので、あの時なにが起きたのかよく覚えていない。だが校舎が崩れ始めた時、彼は自分の体が咄嗟に動いたように記憶している。
ヒカルはふと、ここが病院であることを思い出して不安を覚えた。気を失っている間に、体を検査されていないかと考えたのだ。
しかしヒカルのその不安は、スマートフォンに届いていた中林からの連絡が解決した。中林は医師として潜り込み、ヒカルの体の秘密は彼によって守られていたのだ。
不安に思うことはないのだと理解すると、ヒカルは途端に瞼が重くなるのを覚えた。他の友人たちや学校はどうなったのだろうと考えたが、それらは直ぐに遠くへ消えていく。
微睡の中。ヒカルは、誰かの声を聞いた。その声は繰り返し、何かを伝えようと囁いている。
遠くで、ガラスの割れるような音。しかし何故かヒカルは、それが現実ではなく夢だと確信している。
夢の中、暗がりに明かりがついて、アオイが顔を出した。彼女は、髪も眼も普段とは別の色をしている。現実にアオイの髪や眼の色が変化したことなどないはずなのに、ヒカルはそれを不思議と懐かしく思った。
アオイに手を取られ、ヒカルは共に歩き出す。吐く息は白く、空気は肌に刺さるようだったが、アオイの手の温かさがヒカルを安心させていた。




