2-4 何もかも ⑦
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半壊した校舎とは離れた別の校舎の屋上から、中林は双眼鏡で周囲の様子を注意深く伺っていた。
インドラは崩落から逃れ、キツネとアンズも寸でのところで脱出している。しかし中林が探しているのは、彼らではない。
舐めるように見回して、やがて中林は視界の隅に淡い光を見つけ飛び上がった。
半壊した校舎の瓦礫の中で、蠢くものがある。警察も救急隊も、まだ誰もその存在に気付いていない。
中林は、心を踊らせていた。
瓦礫を押しのけて、中からはヒカルが姿を現す。彼はリリカを腕に抱えるようにして、彼女を庇っている。その体は、淡い赤い光に覆われていた。
中林は、言葉にならない声を上げた。今や彼の期待は現実のものとなり、それは手に届く位置で確かに存在している。
リリカを抱きかかえて瓦礫の山から抜け出すと、ヒカルは少し離れた所で力尽き、膝から崩れ落ちるようにしてへたり込む。それと同時に、彼の体を覆っていた光は消えた。
中林は、自分の体が震えているのが分かった。それは恐怖ではなく、喜びのためだ。
夜空に向かって祈る中林の頬を、涙が伝っていった。




