2-4 何もかも ③
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文化祭中は外されていた各教室のドアが、既に元通りになっている。派手な装飾が施されていた壁や窓は、すっかりいつもの姿を取り戻していた。
ヒカルが一年C組の教室のドアを開けると、窓際の席に腰かけていたリリカがガタンと音を立てて立ち上がった。リリカは、まだ喫茶店のメイド姿のままだ。
「ごめん。遅くなって」
「別に。いいけど」
リリカの顔は、朝と同じように赤かった。
ヒカルが着替えないのかと尋ねると、リリカは、まだ荷物を取りに行っていないのだと答えた。彼女は残ってヒカルを待つ傍ら、細々とした片づけをしていたのだという。
文化祭期間中はどこのクラスも、私物などの荷物は鍵のかかる特別教室に移動させている。その教室は別の棟にあって、鍵は担任に開けてもらわねばならない。
教室の中は黒板に近い一部の照明だけが点けられていて、後ろのロッカーの辺りはすっかり暗くなっている。窓の外には、文化祭の実行員が準備しているキャンプファイヤーの櫓が見えた。
「もうすぐだって」
「放送、流れてたね。山田もさっき走ってた」
ヒカルは、急いで校庭にくるようにと、山田に急かされたことを思い出した。
「じゃあ、行こっか。私も着替えてくるね」
「ううん。まだ行かない」
何故かと、リリカが尋ねる。
「写真、撮ろうよ。今日、全然会えなかったろ。……あと、それ、可愛いから」
続けてヒカルは、「アオイにも見せたいから」と取ってつけたような理由を口にした。だが本当は、口にするまでそんな事は頭になかった。
少し遅れて、リリカは頷く。
ヒカルは、自分の顔がリリカよりも赤くなっているのではと思った。
スマートフォンを構えると、二人はまるで出会ったばかりの人と写真を撮るようにぎこちなく笑う。
画面の中で別人のように笑う自分たちを見て、ヒカルとリリカは顔を見合わせて笑った。
もう一枚撮ろうとヒカルが提案すると、リリカが首を横に振る。
「やだ。沢山がいいの」
そう言ってリリカが笑うのを見て、ヒカルは胸が温かくなるのを覚えた。




