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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
Human after all

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2-4 何もかも ①

四、何もかも


 全校生徒が耳を傾ける中、校内放送用のスピーカーは、各部門の受賞クラスを読み上げていた。


 優秀賞は三年A組の演劇で、最優秀賞は科学部のサイエンス体験。その他、目ぼしい賞は殆ど決まってしまったが、まだ最後の特別賞が残っている。


 特別賞は外部のお客さんの投票で決まるため、実質一番人気があった出し物ということになるのだ。


「特別賞は……北上先生です! おめでとうございます!」


 両手を合わせて祈っていたヒカルのクラスメイト達は、皆そろって驚きの声を上げた。

 放送部の部員は、続けて北上の授賞理由を読み上げている。


 それによれば、本来は一年B組の「マッスルたこ焼き」が受賞となるのだが、現在はその経営権を北上が所有しているということで、北上が受賞に至ったという。


「それでは、北上先生。一言コメントを頂けますか」

「なんだ?」

「コメントですよ。先生」

「ん?」

「あの、北上先生。先ほどお話したように……」


 音声は、途中で流行りの洋楽に切り替わった。

 廊下という廊下に、各教室の笑い声が漏れている。


 ヒカルのクラスメイト達は、どうにかして北上から経営権を奪い返すことが出来ないかと現実離れした計画を画策し始めた。

 そもそもあの設定は完全に冗談では無かったのかと、ヒカルは呆れつつ笑いを溢す。


「皆さま、お待たせしました。片付け、ありますもんね……」


 放送部の漏らした本音に、再びパラパラとした笑いが起きる。


「えー。確認しましたところ、北上先生は就業規則で副業が禁止されているということで、たこ焼き屋の経営には手を出せないとのことです。そのため、特別賞は一年B組の『マッスルたこ焼き』に決定しました! おめでとうございます!」


 教室内で歓声が起きて、皆が傍にいたクラスメイトと手を叩いて喜んだ。


 クラス委員の長山の音頭で皆が互いを称え合うと、今度は後夜祭に向けて慌ただしく片付けの作業に移る。


 担任の上川だけは、自分のクラスの子供たちの成果に感動し、潤んだ目元で窓の外を眺めていた。元々の感動気質もあったが、最近では定年が近づくにつれ涙もろくなっている。 


 生徒たちが片付けのために動き回っている横で、上川だけは、賞を譲った北上には礼を伝えるべきだと少しズレたことを考えていた。


 ヒカルは、中庭で屋台を崩していた。大体解体してしまえば今日の作業は終わりで、後は後日設定されている片付けの時間に作業を行う事になっている。


 鉄板などの業者へ返却するものについては、長山の指示で既に作業が完了していた。


 この文化祭を通してクラスメイトから長山への信頼度は跳ね上がり、女子からの好感度も幾らか上昇しているという。しかし長山本人は、それを気にとめていないようだった。


 工具類をまとめて箱にしまうと、ヒカルは傍で作業していた友人に声を掛けてから教室へ向かう。暗くなってきたので、細かいものを外へ置いておきたくなかったのだ。


 暫く歩いたところで、ヒカルはトイレから出てきたアンズと鉢合わせた。


「東條くん」

「西園寺さん。……顔色が」


 思わず口にしたことを、ヒカルは直ぐに後悔した。尋ねるには、場所が悪すぎる。デリカシーがないと、彼の脳内ではリリカが怒っている。


「……西園寺さん?」


 アンズは、ヨタヨタとその場にへたり込んでしまった。青い顔をしていて、彼女はヒカルの呼びかけにも応えない。


 駆け寄って支えると、ヒカルは再びアンズの名前を呼んだ。


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