表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
Human after all

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/408

2-3 Envy ③



「ヒカル」


 声を掛けると、遠くにいた赤毛の頭がこちらへ振り向いた。


 顔をパッと明るくさせて走り寄ってくる弟の姿に、アオイは顔を綻ばせる。こういった時のヒカルの表情は、昔から全く変わっていない。


 屋台の隙間から、ヒカルは通路へ飛び出してきた。


「アオ姉。仕事は? いいの?」

「午後から。その前に、弟の特製たこ焼きを食べておこうと思って」


 アオイの言葉に、ヒカルは目を細めて笑う。


 ヒカルは店番をしている友人に声を掛けて、パック詰めされたたこ焼きをアオイに手渡した。


 屋台の看板には、「マッスルたこ焼き」の文字と筋肉質なタコの絵が描かれている。


 アオイがプロテインでも入っているのかと尋ねると、ヒカルは首を横に振った。希望者は腕相撲で生徒と勝負をすることができ、勝ち抜いた人数に応じて割引をする仕組みなのだという。


 看板の下には、十五人抜くと店の経営権を譲渡するという内容が書かれている。

 学生らしい悪ふざけだと、アオイは笑った。


「最近は凄いのね。文化祭までカードだもの」

「うん。先生たちも、現金より楽でいいみたいだよ」


 アオイが文化祭用に用意されたプリペイドカードを決済機にかざすと、愉快な電子音と共に商品の金額とカード残高とが表示される。


 自分の学生時代とは随分変わった文化祭の様子に驚きつつ、それがさほど昔の事ではなかった筈なのにと、アオイは苦々しい気持ちにもなった。自分も、ほんの数年前はまだ学生だったのだ。


「あれ、旦那? 旦那どこ行った!?」


 屋台の向こうで、坊主頭の少年が飛び上がる。


 アオイが何事かと視線を向けると、幾人かの少年達が鉄板の前でバタバタと騒いでいるのが見えた。


「どうしたの?」

「僕、知らない……」


 ヒカルは、額に手を当てて俯いている。


 店番をしている女子たちが、ヒカルの名前を呼んだ。向こうで呼ばれているよと、からかうような笑顔を見せている。


 騒いでいた男子達がヒカルの姿を見つけて、慌てた様子で駆け寄ってきた。


「旦那! やばい! また焦げそう」

「火加減やばいっすよ! こびりついてて返らないんだわ」

「旦那! 助けて」


 あっという間に囲まれて、ヒカルは両側から腕を捕まれた。

 ヒカルは顔を真っ赤にして、変わらず俯いている。


「こんにちは」


 アオイが声を掛けると、男子の集団がピタリと動きを止めた。

 皆は急に真顔になって、ササッと身なりを整える。


「こんにちは!」

「失礼ですが、東條君のお姉さんですか?」


 礼儀正しい子達だなと思いつつ、アオイは簡単に自己紹介をして、ヒカルと仲良くしてくれている事に礼を述べた。


「僕たちこそ、旦……ヒカル君にはいつもお世話になっています!」

「そうです。旦那……じゃなくてヒカル君には、テスト前とか助けてもらってます!」


 少年たちは、目をキラキラと輝かせている。

 ヒカルだけは、小声で不満を溢している。


「みんな、ありがとう。……ところで、どうして旦那なの?」


 アオイの言葉で、店番の女子や、隣の屋台にいた生徒まで笑い始めた。


 ヒカルの顔は、看板に描かれたタコよりも赤くなっている。


「東條君には、奥さんがいるんですよ」


 隅に居た真面目そうな少年が、泉リリカを知っているかと小声で尋ねた。


「ああ。リリちゃんね」


 アオイが何となく口にした一言で、周囲がワッと盛り上がった。


 ヒカルが、恨めしそうにアオイの名前を呼んでいる。


 これは流石に悪いことをしたなと思ったが、ヒカルとリリカとの関係はアオイにも気になる所ではあったので、先ずは前進したことを嬉しく思った。


 奥の鉄板の傍に張り付いていた少年が悲鳴に近い声を上げたので、ヒカルは友人たちに囲まれて連れ去られていく。


 また後でねと、アオイは弟の背中に声を掛けた。


 ヒカルは照れているような、怒っているような顔で、アオイに手を振って返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ