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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
TO BE (後編)

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407/408

5-10 ライフ イズ ストレンジ ①

 十、ライフ イズ ストレンジ


 

 昔、理科の教科書のとあるページを開いた時、背筋がぞわぞわして嫌な気分になったことを覚えている。載っていたのは、玉ねぎの細胞の写真。昔からハチの巣や虫の卵のような小さな集合体が苦手で、その手のものを見ると鳥肌が立つ。


 しかし目が慣れると、その写真は自分を不思議な気持ちにさせた。


 細胞は、不思議だ。連続する小さな箱の集まり。ギュウギュウ隣り合って存在するもの。ぱっと見ただけでは分からないけれど、確かに自分の中に存在していて、この体を作っているもの。人間の体には、そんな細胞が三十七兆個も存在しているらしい。


 細胞は一つ一つが膜で覆われて、独立している。みんなで潰れて一つになることはないのに、みんなで一つの命を構成して、機能させている。


 細胞は、まるで人間のようだと思った。どんなに体を合わせても一つに溶け合うことは出来ないし、みんなで集まって複雑な社会を形成している。


 誰もが体の中に十数兆もの命を宿しているのだと思うと、自分の存在が急に不思議に思えてしまう。自分という人間が存在していることは、様々な偶然が折り重なって生まれた奇跡だ。


 それなのに自分は、自分自身を大切に出来ていない。心が下を向いている時は、自分の存在価値を疑ってばかり。何十億といる人間の一人が消えたところで、世界はなにも変わらない。そんなことばかり考えてしまう。


 独りになりたいのに、上手くやれない。だから周りを傷付けてしまう。


 もう消えてしまいたいのに、上手に出来ない。だから、周りに迷惑をかけてしまう。


 愛情も友情も返しきれなくて、申し訳なさと他人の優しさで窒息しそうな日々。矛盾する心。肥大した自意識。捨てきれない承認欲求。孤独と焦燥。そんな日常には何処にでも他人の目が光っていて、絶え間なくありとあらゆる罵詈雑言を浴びせかけてくる。 


 だけど、世界がどうなろうと、他人がどう思おうと、日々は続いていくのだ。来るなと願っても明日は来るし、止まれと祈っても時間は流れる。自分の思い通りに出来るものなんて、自分を含めて唯の一つもないのだろう。


 不確定で、不安定で、不完全な世界。そんな世界を作るのは、未熟で未完成な何十億もの人間たち。


 何十億の中の、たった一人。そんな自分と思いを共有し合える誰かに出会えたら、この孤独感が薄れることもあるのだろうか。


次回で完結です。

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