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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
TO BE (後編)

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5-7 花は桜木、人は武士 ①

 七、花は桜木、人は武士


 二〇×二年 三月 二日 水曜日


 八時半。高咲。


 バケツを引っ繰り返したような、土砂降りの中。街の至る所からは、モクモクと白い煙のようなものが上がり続けている。


 時折、空にはヘリコプターやドローンなどが姿を見せたが、それらは街の悲惨な光景を捉えるだけ。目立つ炎こそ消えたが、街にはまだ大火災の影響が残っていて、地面は常に高温状態だ。そのために誰も街に足を踏み入れることは出来ず、発せられた水蒸気は街中を白い靄で覆い隠している。


 瓦礫の間に蠢くものを見つけて、中林は隙間から手を入れ、ズルズルと赤い塊を引き摺り出した。それは腐った獣肉のような強烈な臭いを放っていたが、中林はお構いなしに口へと放り込む。


「……うん。うん。悪くない」


 飲み込んで、口の周りにベタリと付着した赤黒い血を白衣の袖で拭うと、中林はまた歩き出す。


「全く。キツネにインドラめ……」


 手間をかけさせてと、中林は言葉を続けた。彼は街中に飛び散ったコアトリクエの体を探して、何時間も歩き回っている。全てを回収することは難しいが、それでも大半を取り込むことが出来れば、核の力を得ることは可能だ。


 コアトリクエだったものは、キツネに刻まれ、インドラの雷で組織を破壊された上に炎に焼かれ続けてと、散々な目にあっていた。生きているが、損傷があまりに深刻で、再生にかなりの時間がかかっている状況だ。


 幾つかの塊はネズミなどの死骸と同化して大きく育とうとしていたが、それらは中林によって見つけたそばから飲み込まれている。無抵抗で中林の腹に消えていくその姿は、余りに悲しい。


 街中を見回して、それから空を見上げて、中林は微笑んだ。いつの間にか、空には予兆が現れている。今は分厚い雲に覆われているが、それは直に人の目にも映るはずだ。


 一休みしようと思い立ち、中林は真っすぐに燃え残ったある建物へ向かった。それは工場だったもので、天井の一部が崩落しているが壁はまだ充分に残っている。


 工場の中。そこでは、ヒカルが壁に凭れて眠っていた。


 リリカを取り込んだ後、ヒカルは長い時間をかけて、体内で荒れ狂う炎を抑え込むために闘っていたのだ。彼は幾時間もの間苦しみ続けていたが、その間、一度として核の力を手放そうともせず、後悔を口にすることもなかった。


「可愛い可愛い、ヒカル――」


 中林が傍へ行って顔を覗き込むと、ヒカルは一瞬、声に反応する。しかし動くことは叶わず、中林に殺意がないことを察してか、彼は引き続き夢の中へと戻っていった。


 ヒカルの中。その奥深くでは、温かな日差しの下で、リリカが棺に横たわっている。鮮やかな緑。清らかな小川と澄んだ風。色とりどりの花に囲まれた彼女は、穏やかな表情で眠っている。ヒカルが約束を果たすその日まで、彼女は眠り続けることだろう。


「そうだ。今のうちに、タップリ眠っておきなさい」


 少年の寝顔を見つめて呟くと、中林は満足そうに何度も頷いた。


 計画は、順調に進んでいる。 

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