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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
TO BE (後編)

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353/408

5-6 Birthday ⑦

 *



 同時刻。高咲。


 空から光の筋が落ちたかと思うと、それはヒカルやリリカが身を隠している球体の上に直撃した。


 雷は球体をズタズタに裂きながら、地面に向かって真っすぐに落ちていく。その衝撃で、周囲を覆っていた暴風による壁は姿を消した。


 眩い閃光に目を潰されたのか、身を焼かれたのか。球体の内部の彼方此方からは、コアトリクエの悲鳴が聞こえている。その悲鳴は、段々とヒカルやリリカから遠ざかっていた。コアトリクエを形成していたパーツは、地上に向かってバラバラと落下している。


 球体だった物は今、完熟したザクロのようだ。裂けた一部が垂れ下がって、そこから黒く焼け焦げた大量の羽根が零れ落ちている。柔らかい色をしていた筈の羽根は、その所々が血を滲ませたような紅に変わっていた。


 ヒカルは、リリカの傍に倒れていた。インパクトの瞬間にリリカを守ろうと両腕を伸ばしたのだが、それは彼女には届かず、耳を劈くような音と視覚を奪う光とでヒカルは気を失ったのだ。


「――リ、リ……」


 目を覚まし、ヒカルは静かに顔を上げた。


 暴風は消えたが、空は黒いまま。崩れた球体は、羽根やコアトリクエの肉片を家々や工場、河川にばら撒きながら、尚も進行を続けている。


 ヒカルは、進行方向に街を見つけて戦慄した。彼はこの時まで、自分たちが何処をどうやって移動してきたのか、知る術を持たなかったのだ。


 このまま進んでは街に直撃すると察して、ヒカルは弾かれたように起き上がり、リリカのもとに駆け寄る。


「リリカ! リリカ、ダメだ! 止ま……」


 ギャアッと、耳に飛び込む悲鳴。


 ヒカルが声のする方へ顔を向けると、雷に裂かれた球体の断面に何か刺さっていた。両端が鋭く尖った巨大なそれは、ヒカルが見ている間に二本、三本と増えたかと思うと、途端に辺りを凍てつかせ始める。


 先程の雷も、決して偶然ではない。インドラとキツネが、狩りにやって来たのだ――!


 そう理解するなり、ヒカルは広がっていく氷の傍へ走り寄り、左腕を力一杯振るった。彼が凍った羽根を砕くと、冷気は砕かれた箇所で止まり、球体への浸食が止まる。


 ヒカルが目を凝らして次の攻撃に備えていると、不意に彼の後ろから猛烈な熱波が押し寄せた。攻撃を受けたリリカが、恐怖から体を変化させようとしているのだ。


 ヒカルは反射的に身を捩って逃げようとしたが、彼の体は羽根に取り込まれ、そうしてあっと言う間に内部へと消えて行った。




 同時刻。


(……それが、真の姿か)


 放った矢の行方を見て、キツネは面の下に嫌な汗を掻く。


 そのアナザーは、悪夢を体現したような見た目をしていた。


 テニスコート位の面積を持つ、大きな球体。それは全身がクリーム色をした羽毛で覆われ、更に三対の巨大な翼を持っている。そして何よりも奇妙なのは、その表面に無数の赤い瞳があることだった。


 大小様々な目が、ギョロギョロと周りを見回している。真っ赤な瞳に、長くてカールした真白な睫毛。全ての目は、時折、それぞれがゆっくりと瞬きしている。


 瞳は、三六○度、全ての方向を見ていた。人が歩く様な速度で街に向かって移動しながら、瞳は辺りを眺めている。それは観察するようでも、監視する様でもあった。


 二本の川に囲まれた、河川敷。そこにある公園の芝生の上に立って、インドラも同じアナザーを見ていた。彼は雷を落とした後、キツネの矢がアナザーを攻撃するのを確認している。それは確実にアナザーを捕らえて、確かにダメージを負わせたはずだった。


 だが、今、アナザーは全くの無傷だ。アナザーは地上から十メートルは上空に位置し、空気が狭い金属の管を通り抜ける時のような音を立てて移動を続けている。


 この時、キツネとインドラには知りようもない事だったが、各地で悲劇が起こっていた。アナザーの瞳を見た者たちの中から、炎に身を包まれる者が現れたのだ。彼らの殆どは、テレビやネットの中継を観ていて、モニター越しに瞳と目を合わせた者だった。


 瞳は全ての方向を、そこに存在する人々を見ている。

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