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2-1 予感 ①
第二部 Human after all
一、予感
「ヒカル……?」
リリカの言葉を受け止めた背中が、殴られたような衝撃を覚える。ヒカルは、ゴーグルとフェイスガードで覆われた自分の顔が、青ざめて凍り付いていくのを覚えた。
月は欠けていて、現場は薄明り。いつものように変装し、顔は誰にも見られていない。
「違うの? ねえ、あなた……」
頼りなさげな、リリカの声。
近づいてくる足音。跳ね上がる心音。敗れたスーツから露出した左腕が、風の流れを痛いほどに感じている。
ヒカルの頭は混乱して何も考えられなくなり、額から頬を伝って大粒の汗が流れ落ちていく。どんな敵と対峙している時でも感じることのなかった震えを、ヒカルは今、確かに感じている。
東條ヒカルは、巷でハンターと呼ばれるアナザー狩りの少年である。しかしその正体は、誰にも明かされていない。それは家族にも、友人にも、そして、恋人にさえも――。




