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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
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4-10 グッドバイ ⑨

  

 タワーの崩落に巻き込まれて、中林――ルシエルが消えていく。彼は最後までアオイに向かって何かを叫んでいたが、彼女にとってそれは単なる雑音でしかなかった。


 雨のように鉄塊が降り、巨大なタワーは周囲の音を掻き消しながらその形を変えていく。

 

 自身もその中にありながら、アオイは目を伏せて過去を思っていた。


(私はただ、犠牲を増やしただけ)


 ルシエルを止めるという目的を果たすために生じた犠牲は、その数も規模の大きさも、全てがアオイの想定を上回っていた。


 タワーに残されていた犠牲者達の体も鉄塊に紛れて地上へと向かっていたが、今は誰の目もそれを捉えることが出来ない。地上は、突如起きた地震の為に混乱を極めている。


 見えないことは、救いだった。だが、目に見えないからといって、犯した罪が消える訳でもなかった。


 自分は世界を混乱させているだけなのだと、アオイは自分の無力さを噛み締めている。アオイの脳裏にはヒカルやリリカ、そして淡路の姿が浮かんでいたが、今の彼女には彼らにしてやれることなど何もなかった。


 記憶の中の淡路は、穏やかな笑みをアオイに向けている。アオイはそれを懐かしいとすら感じながら、縋る様に目を閉じて、記憶の中の残絵を追った。


 落ちていく体は、幾度も痛みに襲われた。だが傷は負う度に直ぐ癒えて、体は綺麗なまま。それでも、ただ一つの消えない痛みだけがアオイを蝕み続けている。


 やがて崩落が治まると、アオイの体も何処か固いものの上に横たわった。落ちた衝撃で背中や片脚に鋭い痛みが走ったが、それすらも直ぐに消えていく。


 アオイは自分が横になっているように感じていたが、本当は自分がどんな体制で、何処に頭が向いているのかも分からない状態にあった。体は辺り一面光のない場所にあって、開いても、閉じていても、アオイの目は同じような暗闇を捉えている。


 体の感覚は鈍くなり、時間の感覚は失われていく。音は聞こえず、声も出せない。指一本動かすこともままならず、蔓延する煙の臭いで嗅覚は狂わされている。それでも意識だけは失うことが出来ず、まるで地獄のような時間が過ぎていく――。




 やがて、それは不意に訪れた。


(……誰か……居るの……?)


 アオイが感じているのは、体を包み込むような温もりだった。それは今、寄り沿う様に彼女の傍にある。


 問いかけは言葉にならず、返答もなかった。だが、アオイは今、そこに見知った誰かの顔を思い浮かべて、その幸せを噛み締めている。


 アオイの頬を伝って、一筋の涙が零れ落ちて行く。それは悲しみの為でも後悔のためでもなく、喜びのために流されたものだった。


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