4-10 グッドバイ ⑧
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同時刻。
特務課課長の天下井は椅子の背もたれに体を預け、窓の外を眺めていた。普段彼の目を保護している眼鏡は折りたたまれた状態でデスクの上に置かれ、その傍には直前まで目を通していた書類の束がある。
窓の外の世界は、ブラインドのルーバーで幾つにも分断されて見えていた。その黒い世界は、縦に横にと激しく揺れながらガラガラと音を経てて崩れていく。
天下井は、世界の崩壊を淡々と受け止めている。彼はもう随分と前から、今の現実世界で起きているこの現象が、いつか必ず起こるものとして想定していた。そしてそれがそう遠くない日であることも、彼には分かっていたのだ。
「君の娘が、またしても世界を壊そうとしている……」
呟く天下井の脳裏には、白衣を纏った男の後姿が浮かんでいた。
(だが私も、このままという訳にはいかない)
天下井は窓の外に目を向けたまま、その意識は机上の書類に向けられている。そこには、今後の特務課が、公安という組織を離れて独立する内容が記載されていた。
勿論、それはここ数日で決まったようなことではなく、特務課が設立された時には既に決定されていたことである。しかしその内容は、今まで他の誰にも明かされてこなかった。今、天下井の他にこれを知っているのは、独自に情報を入手していた佐渡だけである。
「……また、会おうじゃないか。そう、遠くはない未来で……」
天下井の言葉は、砂の城のように崩れていく第二東京タワーに、そしてそこに居るであろう人物に対して向けられていた。




