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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
Another

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289/408

4-10 グッドバイ ②

 *



 第二東京タワー。四四五階。


 ヒカルとアオイは、動力を失ったエレベーターの前に居た。


 三五〇階への直通エレベーターは動きを完全に停止して、扉を固く閉ざしている。フロアの中は暗く、煙が充満していて、それは二人から視界と思考力とを奪いつつあった。


 非常灯すら点いていない中で、アオイは非常階段を探して目を忙しなく動かしている。上階とはフロア内の配置が異なっていて、階段は二人から離れた位置にあった。

 

 その隣で、ヒカルは窓の向こうを眺めている。彼は中林の姿が視界から消えたことで、若干の落ち着きを取り戻していた。ただ、先程抱いた疑問や迷いは、決して消えてはいない。


(家に……帰りたい……)


 ヒカルの脳裏には、リリカの姿が浮かんでいる。


 街は暗闇に包まれたままで、リリカの待つ家はその中にあった。真っ暗だと怖いと言って眠れないリリカのことを思い、ヒカルは傍に居てやりたいと考えている。


「アオ姉。……アオ姉は、高いところ平気だったよね?」


 窓を見つめたまま、ヒカルが問い掛ける。

 アオイは振り返って、弟の後頭部に視線を送った。


 ヒカルはアオイの視線には気付いていたが、なにも言わず、繋いでいた姉の手を解き窓の方へ近づいていく。そうして彼は、迷いもなく強化素材の窓ガラスを素手で叩き割った。


 ヒカルの予想した通り、左の拳は痛みも感じず、怪我一つ負っていない。ヒカルは自分が唯の人間ではないということを、再び自らの力で証明していた。


 割れた窓から風が入り込み、煙が吹き返してフロアの中を満たす。


 アオイは両腕を顔の前にかざして、その隙間から弟の背中を見ていた。


「ビルの百階分位って、何メートルくらいなんだろう――?」


 状況に似つかわしくない、呑気な言葉。


 アオイは耳を疑い、ヒカルに視線で言葉の意味を問いかける。


 ヒカルはアオイの目が自分に何か尋ねていると気付いたが、それには気付かぬフリをして、素早く彼女の元に近づきその体を抱え上げた。


 グラグラと地面が揺れるような感覚に襲われて、アオイは思わず小さな悲鳴を上げる。


「えっと……上手く行かなかったら、ごめん」


 不安を誤魔化すようにニコリと笑って、ヒカルはアオイを抱えたまま勢いをつけて窓から外へ飛び出した。


 体が落ちていく感覚に囚われて、冷たい風と様々な音とに聴覚を奪われて、アオイは弟の体にしがみ付きながら目を閉じる。


 ヒカルはアオイの体を大事に抱えながら、目を凝らして、夜の中に薄らと光るタワーの輪郭を捉えていた。


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