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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
Cell

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24/408

1-5 確かなもの ③

 *


 二〇×一年 十月六日 水曜日

 

 登校後、すぐに行われた全校集会。その最中、壇上に立つ校長よりも生徒たちの視線を集めているのは、体育館の壁際に立つ二人の教師だった。数学教師の北上と、体育教師の南城だ。


 校長は桜見川中央公園で起きた爆発事件についての注意喚起と、文化祭の二週間延期、さらに期間の短縮を発表している。生徒からはそれを残念がる声が上がったが、彼らの一部はそれよりも噂話に夢中になっていた。


「あの二人、公園に居たんだってね」

「ケガ人を運んだりしてたんでしょ? 爆発があったのに無傷だったって」

「本当。どうなってるの?」

「人間じゃないよな」


 クスクスと、小さな笑い声。


 生徒から奇異の目を向けられる中、北上と南城は、互いに目を合わせず隣り合って立っていた。南城は腕を組み、北上は長い腕をだらりと下げている。


 全校集会が始まる前、二人は偶然、隣同士になった。南城は北上の隣が嫌だったので移動しようとしたのだが、離れようとした彼女と北上とを校長が呼び止め、幾つか質問をされるうちに集会が始まってしまったのだ。


 校長が話をする中で移動するわけにもいかず、南城は酷く不機嫌である。


 昨日、北上と南城が公園で再会した時、二人は互いに救助の手伝いをしていた。相手が無事だということは予想出来ていた――それには全く根拠がなかった――が、まさか怪我一つないとは思っていなかったので、互いに多少の驚きは隠せなかった。


 南城は北上の頑丈さを気味悪く思い、北上は南城の悪運の強さに驚かされていた。まさか爆心地とされている池のすぐ傍に居ながら、怪我一つないとは――。


「お前は、本当に鉄で出来ているんだな」


 生徒が影で呼ぶ鉄仮面というあだ名を揶揄して、南城が言う。


(どういう意味だ? ともかく俺は、君にも驚かされた。無事でよかったよ)「南城」


 名前を呼ばれて、南城は嫌味を口にした自分を咎められたように感じた。


「……悪かったな。……警察やら校長やら、昨日から質問攻めだ。さすがに堪える」


(類まれな精神の持ち主である君ですらそうなのか)「君も、人間だったんだな」


「……どういう意味だ?」


 南城の鋭い視線を横顔に感じつつ、北上は視線をぼんやりと生徒たちの一角へ向けた。すると北上の視界には、坊主頭の少年とじゃれている赤毛の少年が映る。


 東條ヒカル。彼もまた、事件に巻き込まれた一人だ。


 白鷹中学・高校では数名の生徒が事件に巻き込まれていたが、いずれも軽症で済んでいる。昨日、校外へランニングに出た部活が複数あったことを考えると、それは奇跡としか言い表しようがなかった。一歩間違えれば、大惨事になっていたことだろう。


「強いな、子供は。心に傷を負っても、おかしくはない事件だ」


 南城のそれは独り言だったが、北上は同意して深く頷いた。全員が揃ってこの場に集まれている奇跡に、彼は感動すら覚えている。


 そういえばと、北上は心の中で呟いた。


「東條の姉」


「え? なんだ? 先輩が、どうかしたか?」


(凄まじい反応速度だ、南城。姉は大変そうだが、東條ヒカルは)「大丈夫だろうか」


「何をいう。大丈夫に決まっている」


(そうだな。支えてくれる幼馴染の)「泉もいる」


「ん? ああ」


「淡路さんもいる」


「……お前、どちらの味方だ? 北上」


 ドスの聞いた南城の声に、北上は表情を曇らせた。しかし傍からは、北上が南城の言葉を聞き流しているようにしか見えない。


「あ、また喧嘩してる」

「本当、仲悪いよねえ」


 生徒たちの噂話は止ることなく、あっという間に広がっていく。


 壇上では校長が、今日は真っすぐ家に帰るようにと繰り返し注意を促している。だが生徒の中に、それを真面目に聞いている者はいない。こんなに天気の良い日に、遊びに行かないという考えはないのだ。


 ざわつき始めた体育館の一番後ろでは、中林が怪しく目を光らせていた。その視線は、北上と南城とに注がれていた。


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