1-5 確かなもの ③
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二〇×一年 十月六日 水曜日
登校後、すぐに行われた全校集会。その最中、壇上に立つ校長よりも生徒たちの視線を集めているのは、体育館の壁際に立つ二人の教師だった。数学教師の北上と、体育教師の南城だ。
校長は桜見川中央公園で起きた爆発事件についての注意喚起と、文化祭の二週間延期、さらに期間の短縮を発表している。生徒からはそれを残念がる声が上がったが、彼らの一部はそれよりも噂話に夢中になっていた。
「あの二人、公園に居たんだってね」
「ケガ人を運んだりしてたんでしょ? 爆発があったのに無傷だったって」
「本当。どうなってるの?」
「人間じゃないよな」
クスクスと、小さな笑い声。
生徒から奇異の目を向けられる中、北上と南城は、互いに目を合わせず隣り合って立っていた。南城は腕を組み、北上は長い腕をだらりと下げている。
全校集会が始まる前、二人は偶然、隣同士になった。南城は北上の隣が嫌だったので移動しようとしたのだが、離れようとした彼女と北上とを校長が呼び止め、幾つか質問をされるうちに集会が始まってしまったのだ。
校長が話をする中で移動するわけにもいかず、南城は酷く不機嫌である。
昨日、北上と南城が公園で再会した時、二人は互いに救助の手伝いをしていた。相手が無事だということは予想出来ていた――それには全く根拠がなかった――が、まさか怪我一つないとは思っていなかったので、互いに多少の驚きは隠せなかった。
南城は北上の頑丈さを気味悪く思い、北上は南城の悪運の強さに驚かされていた。まさか爆心地とされている池のすぐ傍に居ながら、怪我一つないとは――。
「お前は、本当に鉄で出来ているんだな」
生徒が影で呼ぶ鉄仮面というあだ名を揶揄して、南城が言う。
(どういう意味だ? ともかく俺は、君にも驚かされた。無事でよかったよ)「南城」
名前を呼ばれて、南城は嫌味を口にした自分を咎められたように感じた。
「……悪かったな。……警察やら校長やら、昨日から質問攻めだ。さすがに堪える」
(類まれな精神の持ち主である君ですらそうなのか)「君も、人間だったんだな」
「……どういう意味だ?」
南城の鋭い視線を横顔に感じつつ、北上は視線をぼんやりと生徒たちの一角へ向けた。すると北上の視界には、坊主頭の少年とじゃれている赤毛の少年が映る。
東條ヒカル。彼もまた、事件に巻き込まれた一人だ。
白鷹中学・高校では数名の生徒が事件に巻き込まれていたが、いずれも軽症で済んでいる。昨日、校外へランニングに出た部活が複数あったことを考えると、それは奇跡としか言い表しようがなかった。一歩間違えれば、大惨事になっていたことだろう。
「強いな、子供は。心に傷を負っても、おかしくはない事件だ」
南城のそれは独り言だったが、北上は同意して深く頷いた。全員が揃ってこの場に集まれている奇跡に、彼は感動すら覚えている。
そういえばと、北上は心の中で呟いた。
「東條の姉」
「え? なんだ? 先輩が、どうかしたか?」
(凄まじい反応速度だ、南城。姉は大変そうだが、東條ヒカルは)「大丈夫だろうか」
「何をいう。大丈夫に決まっている」
(そうだな。支えてくれる幼馴染の)「泉もいる」
「ん? ああ」
「淡路さんもいる」
「……お前、どちらの味方だ? 北上」
ドスの聞いた南城の声に、北上は表情を曇らせた。しかし傍からは、北上が南城の言葉を聞き流しているようにしか見えない。
「あ、また喧嘩してる」
「本当、仲悪いよねえ」
生徒たちの噂話は止ることなく、あっという間に広がっていく。
壇上では校長が、今日は真っすぐ家に帰るようにと繰り返し注意を促している。だが生徒の中に、それを真面目に聞いている者はいない。こんなに天気の良い日に、遊びに行かないという考えはないのだ。
ざわつき始めた体育館の一番後ろでは、中林が怪しく目を光らせていた。その視線は、北上と南城とに注がれていた。




