1-5 確かなもの ①
五、確かなもの
ヒカルが目を覚ました時、彼の目の前には見知った天井があった。
「目が覚めた?」
聞き覚えのある声。いつもより甘いトーン。
視界にアオイの顔が映ると、ヒカルは体中の緊張が解れていくように感じた。
「リリカは?」
アオイの表情から、ヒカルにはリリカが無事であることは予想がついていた。
「私の部屋で寝かせてる。ヒカルのベッドじゃ狭いでしょう?」
アオイにつられて、ヒカルも笑った。
「中林先生っていう方が、二人を運んでくださったそうよ。荷物もね。覚えてる?」
中林の名を耳にして、ヒカルは無意識に自分の左腕を擦っていた。腕は、いつものそれに戻っている。
中林はヒカルとリリカが気を失った後、二人の無事を確認し、彼らを家まで運んでいた。
怪我がなくて良かったと、アオイが笑顔を見せる。
ヒカルは、「自分は飛び切り頑丈だから」と笑い返した。
アオイはその言葉を噛み締めるように、幾度も頷く。その目は、まるで母親が子に注ぐような慈愛に満ちている。
「ごめんね」
絞り出すようにそういうと、アオイの口からは関を切ったように言葉があふれ出た。
「あの時、二人が公園に居たなんて知らなくて……。二人が家に帰ってるか確認する方が先だったのに。家にいないって気付くのも遅くて。警察とか消防とかの対応なんて、全部他に任せて探すべきだったのに。ごめんね、ごめん……」
「アオ姉」
「ヒカル。ごめんね……」
「変だよ。アオ姉。どうして謝るの」
ヒカルの目を見て、アオイは言葉を詰まらせる。
「僕ら、大丈夫だよ。アオ姉の仕事のことは知ってる。アオ姉は、人を助ける仕事をしてるんだ。僕はそんなアオ姉が、大好きなんだよ」
ヒカルの屈託のない笑みを見て、アオイは思わず彼に飛びついた。
アオイの両腕に抱きしめられて、ヒカルは懐かしい匂いに包まれる。
アオイは鼻をグズグズいわせて、ボロボロと涙を流している。
自分が守った日常を噛み締めるように、ヒカルはアオイの体を抱き返した。




