4-3 月の裏側 ③
*
十時。ダイニング。
タブレットPCで授業を受けているヒカルの手元で、彼のスマートフォンが短く振動した。相手は、中林だ。
ヒカルはモニターからそっと目を逸らして、通知の内容を確認する。そこには、中林が既に退院しているということ、生物室の地下にある空間の秘密は保たれていること、スーツの修理は今週中に完了するという内容が並んでいた。
ヒカルは安堵して、先ずは中林の体を気遣うメッセージを送る。
不意に耳元で英語教師の声がして、ヒカルは思わず背筋を正した。
英語教師は教科書の一文を読み上げて、その構文について解説を始めている。
自分が咎められたわけではないと分かり、ヒカルは軽く溜息を漏らす。そもそもリモート授業で自分の手元が見られるわけがないのだが、彼は元々の性格が真面目だった。
正面ではリリカが、そんなヒカルに不思議そうな視線を送り、それからまた真面目に授業に戻っている。彼女のクラスは、古典の授業らしい。リリカは教科書を眺めながら、時折マーカーを引いてなにか書き込んでいた。
リリカの後方には、ヒカルが買ってきたポッチーの箱が積まれている。その箱をボンヤリと見つめながら、ヒカルは姉たちの帰りが遅くなることを思い出していた。詳細は聞いていないが、久々の休みということもあって色々と予定があるのだろう。
チラリとリリカの方を見て、それからヒカルは再びポッチーを眺める。
耳元で英語教師の声がして、ヒカルは慌ててモニターに視線を戻した。今度は、問題を解くように当てられている。
ヒカルは予習済みのノートとモニターを交互に眺めながら、慌ててそれに応えた。




