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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
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3-9 unmask ⑪



 二十二時三十五分。


 気を失いかけて、キツネはその場に膝を着いた。二つの核の力を同時に広範囲で使用したためか、体が酷く疲弊している。


 離れた位置ではインドラが、黒煙の向こうに一人の少年の姿を見ていた。


 彼らの前には、抉れた地面が広がっていた。その中央には巨大で、それでいて深い縦穴が開けられている。キツネが力を使って抑えなければ、この一帯が消えていたことだろう。


 穴の底には、小さな欠片になったコアトリクエの姿があった。それはやはり再生を始めていたが、その体には上から次々に土が覆い被せられている。


(無限に再生出来ても、空間を超えることはできない。あれだけ地中深く埋められてしまえば、脱出もままならないだろう)


 想像して、インドラは背筋に冷たいものを覚えた。これからの永い時を、コアトリクエはただ死しては蘇り続けるのだ。歌を歌うことはおろか、太陽を見ることもなく。


 一通り埋め終えると、ヘカトンケイル――ヒカルは穴を開ける際に砕いた厚い岩盤の欠片で地面を固めている。まるで、料理か工作でもしているかのような仕草だ。


 全てを終えると、ヒカルは穴を離れて二人の傍へ戻った。


 キツネは立ち上がり、無意識に刀の柄に手を置く。


 インドラは両腕をだらりと下げていたが、その腕はいつでも闘う準備が出来ていた。


「少年」


 インドラの声は珍しく緊張していたが、それは二人には伝わっていない。


「……彼らは」


 インドラは、そこで言葉を詰まらせた。それ以上は、どんな言葉を選んでも尋ねることが出来ないように思えた。


 ヒカルは、首を少し傾ける。


「彼ら? 彼ら……? いえ、アナザーです。あれは、人間じゃない」


 少年の顔は、ゴーグルとフェイスガードで覆われている。しかしその顔は無邪気に笑っているのだと、インドラとキツネは察していた。二人は今、同じ類の恐怖を覚えている。


 キツネは無言で、その場を去った。


 少しの間を置いて、インドラもキツネとは別の方へ跳ぶ。


 二人の背を見送って、ヒカルは心の中で彼らに礼を伝えた。


 無線が、鳴った。中林だと察して、ヒカルは声を弾ませて応答する。中林によれば、歌と共にアナザーの反応も完全に消えたようだという。


 直ぐに戻ると伝えて、ヒカルは空を見上げた。闘いの最中には気付くことが出来なかったが、上空には星空が広がっている。星は、今にも地上に降り注ぎそうだ。


 ヒカルのスーツの両腕は破れていて、彼は肌にあたる風の冷たさを心地よく感じている。


 歌はもう、何処からも聞こえてこない。


(小さな星の徒、たえるべし)


 あの時聞こえていた言葉を、ヒカルは心の中で呟いてみた。「たえる」は「耐える」だと思ったが、それとも「絶える」だろうか。


 直ぐにそんなことはどうでもよくなって、ヒカルはホテルへ向けて駆け出した。先ずはリリカと、友人たちの無事を確認しなければ。


 ハンターとして、また人助けができたのだ。ヒカルの心は、晴れていた。


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