3-9 unmask ③
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二十一時二十分。
林の中。
三方を壁に囲まれた、資材置き場。木製の三角屋根の下には切り出された木材が積まれ、その上からはブルーシートが掛けられている。そこへ足を踏み入れると、インドラ――北上は、担いでいたキツネを地面へ下ろしてやった。
キツネは、完全に気を失っている。彼女の手首を取って脈があるのを確認すると、北上は安堵して小さく息を漏らした。
地響きは、止んでいる。アナザーは、動きを止めているのだ。
雪崩の瞬間、北上はまず相馬を助けようと試みた。だが相馬は、北上の手を振り払い消えてしまった。
北上は仕方なく相馬を諦め、キツネを抱えて雪崩から逃れていた。
(少年は……無事だろうか)
北上は、元来たコースの方へ視線を送った。ヘカトンケイルは距離が離れ過ぎていて、助けることは出来なかったのだ。
北上は、再びキツネへと視線を戻す。
キツネに目立った怪我はないようだったが、草履を片方無くしていた。腰の刀は消えていて、彼女は弓も背負っていない。
少しの休息を求めて、北上もドカリと地面に腰を下ろす。次にアナザーが動き始めた時、彼はなにをしてでもそれを止めなくてはならなかった。ホテルには生徒と、南城がいる。
北上の目の裏ではミカンが、甘えた声で鳴いていた。