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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
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3-8 愛のメロディー ⑩

 *



 耳元で繰り返される音で、ヒカルは段々と意識を取り戻していた。やがて耳元の音が人の声だと気付くと、ヒカルはハッとしてベッドの上に跳ね起きる。先程まで階段に居たはずの自分の体は、いつの間にかベッドの上にあった。


「――先生?」


 ベッドに転がっているスマートフォンを拾い上げて、ヒカルは呼びかける。


「ヒカル! 目が覚めたか!」


 電話の向こうで、中林が声を上げた。彼は震え声で、幾度も「良かった」と繰り返している。ヒカルから応答があったことを、心から喜んでいる様子だ。


 ヒカルが自分は気絶していたようだと伝えると、中林は現在の状況を彼に簡単に説明した。それによれば、スキー場のイベントに参加していたコアトリクエというアーティストが、アナザーと思われる力を使っているのだという。


 今、スキー場に面した全てのホテルや飲食店にいた人間は、皆が気を失っている。中林によれば、眠っているような状態らしい。


「どうやら、コアトリクエの奏でる音楽に秘密があるようだ。音は、山の頂きの方角から聴こえている。分かるかね?」


「はい。確かに、なにか聴こえています。この音を止めれば、皆は目を覚ますんですね?」


 中林は、恐らくそうだと答えた。


「コアトリクエは既に山の中だ。急がねば……。ヒカル、先ずはスーツだ。スーツを……」


 中林の口調の変化に気付いて、ヒカルは電話口で彼の名前を大声で呼んだ。


 僅かな沈黙の後、中林は大丈夫だと答える。


「ヒカル。私は、しばらく音の聴こえないところへ身を隠す。このままでは私も……。ああ、ヒカル。君のスーツの場所を、送る。……それから」


 薄れゆく意識に抗う様子で、中林は深く息を吸い込んでいる。


「泉リリカは、無事だ。だが、急がねば、みな、危険が……」


「先生? ……先生!」


 ヒカルは、中林の名を呼んだ。しかし、中林からの応答はなかった。彼は、気を失ったようだ。


 ヒカルは中林から最後に送られてきたメモを確認すると、部屋から飛び出して大浴場のある最上階へ向かって階段を駆け上がった。


 大浴場に面した脱衣所の、鍵の付いたロッカー。「十二」と書かれた最上段のロッカーの上を手で弄って隠されていた札を見つけると、ヒカルはそれを鍵穴に差し込んだ。


 ロッカーの中には、中林が改良したスーツが収められている。


(先生……)


 スーツを掴むヒカルの手に、力が籠っていく。意識を失う間際まで、中林は自分の為に尽くしてくれたのだ。


 手早くスーツに腕を通し、ゴーグルとフェイスガードを身に着ける。やがてヘカトンケイルと呼ばれるハンターの姿になると、ヒカルは廊下の先の大きな窓へと向かった。


 はめ込みの窓を拳で叩き割ると、ヒカルはそこから宙に身を躍らせる。そうして二十メートルは優に越えるその高さを一瞬でゼロにすると、彼は真っすぐに山の頂きへ向かって駆け出した。


 ヒカルの目は、遥か前方をいく一台の雪上車を捉えている。


 そこには、コアトリクエがいた。

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