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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
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3-8 愛のメロディー ⑥



 二十時五分。


 イベント会場へ向かう途中で、アオイは耳に痛みを覚えて蹲った。体から、力が抜けていくようだ。


 その隣では淡路が、耳を抑えて体を伏せている。彼は咄嗟に、私物のイヤホンを両耳に押し込んでいた。


 能登は大きな手で顔を挟むようにして、地面に額を着けている。彼は本能的に、体を伏せたようだ。


 イベント会場の方から、音が聞こえる。それは単調で、それでいて奇妙な旋律だ。


 コアトリクエが、演奏している。それはデータとは比べ物にならないほどの重圧で、直接アオイの頭に流れ込んでくるようでもあった。


 耳が慣れてくると、アオイは立ち上がって辺りを見回す。そうして立てかけてあった資材を手に戻ると、彼女は蹲る能登の後頭部を思い切り叩いて気絶させた。


 目撃した淡路は、絶句する。能登でなければ、大けがをしているところだ。


 アオイは資材を手にしたまま淡路の方へ顔を向けると、彼に動けるかと尋ねた。


 淡路は頷いて、直ぐに立ち上がる。彼の耳は、ほんの少し痺れていた。


「能登を部屋へ運んで。しばらく、出られないようにして欲しいの」


 アオイは資材を遠くへ放ると、その目をイベント会場の方へと向けた。会場では今まさに、バタバタと人が倒れているのが見える。


「それから、ヒカルとリリちゃんの所へ行って。あ、分かってると思うけど、向島も確認よろしくね」


 アオイはジャケットの内側から銃を取り出すと、弾倉を確認して再びしまい込む。


「とにかく、危害が及ばないように。……大丈夫だと思うけど、彼に怪我させないでね。絶対に。お願い、約束して」


 アオイと向き合って、淡路は感情を抑えた。それから彼は、「能登のタンコブは冷やしておく」と何時もの調子で笑ってみせる。


「で、アオイさん、僕の心配はしてくれないんですか?」


「必要?」


「冷たいなあ」


「だって、もう一蓮托生なんでしょ? 私が死ぬ時は、あなたも諦めて死になさい」


 先に行くと言って、アオイはイベント会場へ向かって駆け出す。


 その背が小さくなるまで見送って、それから淡路は能登を担ぎあげた。


(アオイさん……)


 能登の重みで、踏み出そうとした淡路の足が雪道に沈む。彼の顔は無表情だが、その裏側では大急ぎで感情の整理が行われている。


「――あれ、僕……プロポーズされました……?」


 既に見えなくなったアオイに向かって、淡路は幸せな妄想を口にする。


 慌てて能登を背負い直すと、淡路は雪道を軽やかに駆け出した。


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