1-4 守りたいもの ②
*
「今、なにか――」
「今、なんだか――」
同時に口を開いて、北上と南城は顔を見合わせた。
二人は後方にある池の対岸から、何か奇妙な空気が伝わってくるのを感じたのだ。
「……北上。私は、ちと用事がある。先に学校へ帰れ」
「俺もだ。君が帰れ」
「だめだ。お前が、帰れ」
「困る。君が帰れ」
少しムッとして、南城は池に向かって歩き始めた。
その後ろを、北上も追う。
「お前、何故追いてくるんだ?」
「こちらに用がある」
北上は帰ろうとしない南城を心配して少し焦り始めていたので、普段よりも更にぶっきら棒な言い方になっていた。
「北上。帰れ」
「だめだ」
「ダメとはなんだ。帰れと言うに!」
「君が帰れ」
「所用だ!」
「俺もだ」
埒が明かなくなって、二人は池の手前で立ち止まった。
「私は、こちらに用がある。お前、こちらに用はないな?」
南城は、公園の東を指した。
「ない。俺は、こっちに用がある。南城は、こちらには来るな」
「行かぬ。お前こそ、こちらには絶対に来るなよ」
公園の西側を指さす北上に念押ししてから、南城は東側に向かって歩き始めた。背中では、北上の行動を窺っている。
北上は、学校へ戻ろうとしない南城にやや呆れつつ、彼女とは反対方向へ歩き出した。意識はしていないが、背中では気配を探っている。
そうして二人は互いの姿が見えなくなるまで歩いて、それぞれ近くの茂みに飛び込んだ。
一瞬の間。
それぞれの茂みに、光が走った。