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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
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3-7 my sweetie pie ⑨

 *



 アオイと離れた後。ノックをしてから、淡路は荷物を抱えて二つ隣の部屋に入った。


「あー。能登。実は、急にこっちに合流……」


 部屋の奥まで進んで、淡路は思わず閉口する。目の前では自分より一回りは大きな男が、ソファの下で両手両足を手錠に繋がれて藻掻いていた。


「能登? どうした?」


 淡路が声を掛けると、能登は手足をバタバタさせて再会を喜ぶ。彼は淡路がここにいる理由は尋ねようともせず、純粋に助けが来たことを喜んでいた。


「……え? 一部屋しか取れなかったから、東條さんを安心させようと思った? で、手錠掛けたら、動けなくなったのか?」


 能登はコクコクと頷いている。更に彼は、少し前にアオイから着信があったようだが、スマートフォンの置かれている所まで歩けなかったのだと嘆いた。


 能登なりに頑張って考えた結果なのだろうと、淡路は彼に同情を覚える。二十歳そこそことはいえ、能登も男だ。異性と同じ部屋で過ごすのは、辛いだろう。


 アオイには危機感がないので余計に質が悪いのだと、淡路は先程の一件を思い出している。彼女はあの状況にあっても、望めば解放されることを信じて疑ってはいなかった。


 淡路が傍へ行って膝を着くと、能登は先ず手から自由にして欲しいと言って腕を前に出した。鍵は、カバンの中だという。


 カバンを漁る気にはなれなかったので、淡路はそのまま手錠に手を掛けた。


「はいはい。待ってな。……え? そういえば、どうやって部屋に入ったかって?」


 能登はビー玉のように真ん丸の目で、淡路の顔を不思議そうに見つめている。部屋はオートロックで、鍵はテーブルに置かれているのだが。


 やがてカチャリと音がして、能登の手首から手錠が外れた。


 手錠を能登に持たせてやると、淡路は彼の肩をポンと叩く。


「知らないフリするのも、大人だろ?」


 淡路は、いつもと同じ笑顔を見せる。そうして彼は、脚は自分で外すようにと言った。


 淡路が荷物を手にクローゼットへ向かうと、能登は彼から視線を逸らして手の中の手錠を眺めた。自分がなにを試しても、決して外れることのなかった二つの輪っか。


 よく見ると手錠は、ドーナッツに似ている――能登は、もうそれ以上は考えないことにした。


(能登が聡い奴でよかった)


 クローゼットに入れた自分の荷物の上に、淡路はポンと手を乗せた。中には、彼の仕事道具が詰め込まれている。


(帰りの新幹線、一席キャンセルせずに済んだな)


 手錠で動けなくなっていた能登の姿を思い出して、淡路は荷物に顔を向けたまま微笑む。あの様子では、能登がアオイに手を出すことはないだろう。彼は、アオイの荷物が消えていたことにも気付いていないようだった。


「折角だから、今日は美味いものを食べに行こうな」


 淡路は、心からの笑顔を能登に向けた。


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