3-7 my sweetie pie ⑥
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十五時半。
ウサギゲレンデで、ヒカルとその友人たちは覚えたてのスキーを楽しんでいた。スキーの講習は先程終わったばかりで、ゲレンデの端では休憩している生徒も多い。
山田は野球部で鍛えていることもあってか、初めから安定して滑ることが出来ている。
長山は経験者だけあって慣れていて、脚運びのコツをヒカルに教えた。
ヒカルは二人の友人に合わせて動いているうちにコツを掴んで、楽しんで滑ることが出来るようになっていた。
「明日は、他のコース行こうぜ!」
滑り終えた山田が、ゴーグルを外して帽子を被りなおしている。坊主頭の彼は、帽子がないと凍え死ぬと冗談を言って周りのクラスメイトを笑わせた。
「隣はもっと急みたいだよ。そっち行こうか」
ヒカルがストックを雪に刺して遠くを指すと、長山も大きく頷いた。隣には、クマゲレンデという斜度の高いコースがある。
頑張って最終日は山頂から滑ってみようと長山が言うと、山田が腕をブンブンと回して気合を入れた。それを見て、ヒカルも笑う。
少し離れた所では、隣のクラスの女子が集まって写真を撮っている。彼女達もスキーやスノーボードを楽しんでいたが、同じくらいの時間を写真や動画撮影にも費やしていた。
皆が楽しんでいる様子を見ながら、ヒカルはふと、山頂の方へ目を向ける。あんなに高ければ、空に手が届いてしまうかもしれない。
「東條君。この辺りは、星空が綺麗で有名らしいよ」
長山はヒカルが山頂を見ていることに気付いて、そう声を掛けた。
「そうなんだ。観てみたいなあ」
「彼女と一緒に、だろ?」
間髪入れずに、山田がヒカルを茶化す。
そうだよと山田に答えながら、ヒカルはリリカだけでなくアオイにも星空を見せたいと思った。皆で旅行に行くのもいいなと、彼は楽しい想像に顔を綻ばせる。リリカとアオイ、そして淡路と一緒に、皆で寝転がって星空を飽きるまで眺めるのだ。
(星――?)
なにかが、ヒカルの脳裏に浮かぶ。
一面の雪と、遠くに広がる林。そして山頂を眺めるこの景色は、彼になにかを思い起こさせようとしている。
遠くから、体育科の増田の声がした。遠目にも分かる大柄な年配の女性が、集合だと声を掛けて生徒を集めている。「ナイター」や「風呂」といった単語が聞こえてくるので、恐らくこの後の日程について説明があるのだろう。
先に向かう山田の背を、ヒカルと長山は追いかけた。