3-6 大胆に、情熱的に ⑤
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二〇×二年 二月 四日 金曜日
キオスクで働く静野ヨシエは、勤続二十年のベテランだ。彼女はいつも東京駅のホームから、旅立つ人々の安全を祈り見送っている。
今日は朝から、学生の団体を見送った。長野方面へ向かうことから、恐らくスキー合宿なのだろう。学生たちのワイワイと楽し気な様子をみると、ヨシエは自分も学生時代に戻ったような若々しい気持ちになった。
それから一時間程して、ヨシエは珍しいものを目撃することになった。二メートルを優に超える大男と、絵画に描かれるような美女の組み合わせだ。彼らは人目を惹いていていたが、当人たちにそれを気にする様子はなかった。
大男は首から唐草模様のガマ口を下げていて、キオスクでは弁当とペットボトルの麦茶と冷凍ミカンを買った。彼は電子カードで決済したのだが、一本一本がちくわくらいの太さの指でカードをつまむ様子は面白くもあった。
その二人が列車に乗り込んだ少し後、今度はキオスクの前を、キャリーケースを牽いた男性が通過していった。品の良いコートに身を包み細身のグローブをはめたその男性は、彫刻のように整った顔立ちで人目を集めていた。
これには思わずヨシエも見惚れてしまい、思わず仕事を忘れそうになった程だ。彼がグリーン車へ乗り込んでいくその後姿でさえ、まるで映画のワンシーンのように輝いていた。あの瞬間、彼に目を奪われなかった者は恐らくいないだろう。
そうして、現在。ホームは、出張と思われるビジネスマンや、旅行へ向かう家族連れで賑わっている。彼らの楽し気な表情を眺めて、ヨシエは今日も元気を貰っているのだった。