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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
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3-5 think ⑪



 十七時。


 南城家から北上家までの道を、北上と南城は並んで歩いていた。彼らは互いに外側の手に土産の入った袋を持ち、もう片方の手では仲良く小さな石油ファンヒーターを運んでいる。


 ヒーターは南城家の使用人一同から、半ば押し付けられる形で北上家に譲渡されていた。


「……いいのか? 本当に」


 二人の間にあるヒーターを目に、北上は言う。


 北上の左手には、酒瓶と餅の入った袋があった。さらに彼は、洗濯を終えた衣類を包んだ風呂敷を首からかけている。


「構わん。大体、お前の家は寒すぎるんだよ。ミカンが風邪を引いてしまう」


 南城の右手には、滝から渡された夕飯のおかずが詰められた風呂敷包がある。


 当初、二人は洗濯した北上の衣類を回収し、昼食を終えてすぐ北上家に帰宅する予定でいた。だが、滝になにかと絡まれるうちに、気付けばこの時間になってしまっていたのだ。


 南城は先程から、ミカンの身を案じている。


 北上は南城家に居る時から、滝に言われた言葉が頭の中でグルグルと回り続けている。


「いつも、食事を貰ってしまっているな」


「構わん。だって、残ったら捨てるもの。だったら、食べて貰った方がいいんだ」


「君も、うちで食べて行くだろう?」


 北上の言葉に、他意はなかった。だが口にしてすぐに、なにか誤解させてしまっただろうかと彼は慌てた。


 南城は、食べて行くとだけ答える。特に、深く考えていないようだ。


 南城は、北上にすっかり気を許すようになっていた。北上はそれを嬉しく思ったが、それは同時に悲しくもあった。


「あのな、北上。そんなに気にするなら、包丁を研いでくれ。あと、あのフライパンは、流石に新しくした方がいいと思う。そうしたら、お前の家で料理が出来るんだから」


「……君が?」


「お前、出来るのか? ……無理だろうな。多分、米も炊いてないんだろ?」


 ダメなやつだと、南城は笑っている。


 北上は、包丁を研ぐと伝えた。


 南城は頷いて応えたが、既に自分でやった方が良いかもしれないと思い直している。自分で使う道具は、出来るだけ自分で手入れをしたいからだ。


「いつも済まない。ヒーターも。流石に申し訳ないが」


「なんだ。何度も。春になったら、また家に戻せばいいじゃないか。大体、お前の家が寒いのが……」


 南城が小言を垂れているのを遠くに聞きながら、北上は口の端を持ち上げて笑っていた。南城が当たり前のように未来の話をしたことが、彼には嬉しかったのだ。


 また一緒に運んでくれるのかと、北上は尋ねた。ヒーターが重いわけではなかったが、北上はそうしたかった。


 当たり前だろと、南城は答える。その目は、遠くの空を見ていた。


「そういえば、『ちゅーちゅるん』はいつから与えていいんだろう? 知ってるだろ? 猫のオヤツ」


 北上が知らないと答えると、南城は呆れて溜息を漏らした。


「全く、仕方がないな。帰ったら調べてみよう。ミカンもきっと気に入るぞ」 


 南城は上機嫌で、「ちゅーちゅるん」のCMソングを歌っている。


 それを聞きながら、北上はまた微笑んだ。南城が当たり前のように、北上の家に「帰ったら」と言ったからだ。


 南城は、遠くの空を見ている。


 今は北上も、同じ空を眺めていた。


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