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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
progress
132/408

3-5 think ①

五、think


 陽が陰り 風が止む

 月なきみそら 遠い世界よ

 完全な沈黙 深淵に身を委ね 

 天上へ その向こうへ

 我らに英知を授けたまへ


 地が凍り 空が墜つ

 嗚呼洋々たる 時の流れよ

 我ら人の子に 声はなく

 天上へ その向こうへ

 我らに命を授けたまへ



 *


 

 カツンと音がして、中林は歌うのを止め、手元から滑り落ちたボールペンに目をやった。冷たい床に転がるペンに手を伸ばし、再び顔を上げたところで彼の目は星を捉える。


 生物準備室の地下には、壁一面に星空が投影されていた。都会では考えられないほど精彩に富んだ空は、長野県のある地域で撮影されたものだ。


「アリス。エヴァ。イリス――」


 中林の脳裏には、三人の少女の姿が浮かぶ。それらは皆、全く同じ見た目をしていた。


 次々に思い起こされる記憶は、中林を過去へと誘う。三人の少女。緑豊かな学校。生き残った一人。天上への憧れ。十二人の子供たち。崩れ、壊れていく人間の姿。消えていく子どもたち――。


 不意に目の奥に痛みを覚えて、中林は椅子の背もたれに体を預けた。そして天を仰ぎ、星空に手を伸ばす。


「君はまだ、生まれた意味を知らない」


 中林の脳裏には、アドベンチャーニューワールドで再会を果たしたイリス――アオイの姿が浮かんでいる。彼女は記憶を取り戻した様子をみせていたが、それは単に知っていることを思い出したというだけだ。


「君はまだ、自分の価値を知らない」


 中林が思い浮かべているのは、アオイと共に笑うヒカルの姿だ。


 星を掴むように掌を握りこんで、それから中林は笑みを浮かべた。中林はまた上機嫌で歌を口ずさみ、そうして彼は目の裏に蘇る記憶の波へと思いを馳せるのだった。


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