3-4 ビタースウィート ③
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「南城先生と北上先生が、家にいらしているそうです。ヒカル君から連絡が」
耳元で響く声に、アオイは頷いて応えた。
車の後部座席の下には、開かれたままのノートパソコンが落ちている。ひっくり返って真横になったモニターには、音楽データの再生画面が表示されていた。それは今も再生されているが、イヤホンと接続されているために音は出ていない。
暗く寒い車内で、アオイは淡路に体を預けたまま体の震えが止まるのを待っていた。
一週間程前に始めて耳にした時から、音楽はアオイの心を蝕んでいる。初日は突然泣き出してしまい、そのまま疲れて眠ってしまったほどだ。
淡路は、データの確認をしていない。アオイがそれを、強く求めたからだ。
アオイは、淡路がこの音楽を耳にしても影響がないだろうと考えている。ただ彼は、そこから別のものを得る可能性がある。
もう少しだけと、アオイは口にした。吐き出した白い息が、広がって空気に溶けていく。
淡路は腕にアオイを抱えて、彼女が落ち着くのを待っている。
その間も、歌は延々とパソコン上で再生されていた。そのタイトルは恐らく造語で、そのために二人はこの歌の本当の名を知ることが出来ない。
「もう少しだけ……」
アオイの頬を、涙が伝っていった。




