3-3 boy ④
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同日。十三時半。
会議室からオフィスへ向かうところで、アオイは部下の一人が奇妙な行動をしていることに気付いた。
二メートルを優に越える巨体の持ち主――能登が口元を真一文字に結んで、両手を大きく広げている。まるで熊だ。
「能登? どうしたの? お腹空いた?」
能登は、首を大きく横に振っている。
アオイの声が聞こえたのか、能登の後ろからは城ヶ島も飛び出してきた。元レスラーらしい大柄な体格の城ヶ島は、能登の隣に立って同じようにアオイの行く手を遮っている。
(また、なにをしてるんだか……)
アオイは腕を組んで、二人に首を傾げてみせた。
二人はアオイが理由を尋ねていると直ぐに理解したが、目を逸らして応えない。
「国後は、中にいるんでしょう? 通さないなら、無理やり通るけど」
アオイの言葉に、能登と城ヶ島はたじろぐ。
アオイの直下には他に、佐渡と淡路という部下がいる。二人は先ほどまで会議に同席していて、まだオフィスには戻っていないはずだ。
二人が退く様子がないので、アオイはため息交じりに髪をかき上げた。
「……え? あれって、『リリパレ』の桜ノ宮カノンちゃん……?」
アオイが遠くの廊下を指すと、城ヶ島が能登を押しのけて飛び出した。
城ヶ島は「リリカル☆パレード!」、通称「リリパレ」のメンバーである桜ノ宮カノンの熱狂的なファンである。
「いる訳ないでしょ」
城ヶ島が退いたスペースに滑り込んで、アオイはオフィスに戻っていく。
城ヶ島は再び元の場所へ戻ろうとして体勢を崩し、転びそうになったところを能登に支えられていた。そうして二人は、オフィスに消えていくアオイの姿を見て体を震わせる。
アオイがオフィスに入ると、彼女のデスクの前には国後がいた。国後は伸ばしっぱなしの髪を低い位置で一つに縛って、今朝は着ていなかったパーカーを着込んでいる。寒いのだろう。
デスクを挟んで向こうには、こちらに背を向けて、誰かがアオイの席に腰を下ろしていた。
国後はアオイの姿を見るなり、頭を抱え込んだ。彼は小声で、佐渡の名前を念仏のように唱えている。国後には、困ったことがあると先輩の佐渡に泣きつく悪い癖があった。
「遅かったじゃないか、東條」
聞き覚えのある声がして、背中を向けていた人物がクルリと椅子を回転させた。
「向島。どうしたの? 急に」
アオイは咄嗟に、向島から視線を逸らす。
国後は床を這うようにして、急いで廊下へ逃げていく。
向島は椅子に深く腰掛けて、長い足を放り出すように組んでいる。彼はアオイのデスクを、コツコツと叩いた。アオイに、自分の方を見るように言ったのだ。
目が合うと、向島はにっこりと笑った。
「少し、話そう。勿論、話せるよな? 東條」
「……そう、ね」
向島は、怒っている。それを察して、アオイの体は瞬時に芯まで冷え切っていた。
廊下では三人の部下が、自分たちに落ち度はなかったと互いの健闘を称え合っていた。