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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
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116/408

3-3 boy ①

 三、boy


 二〇×二年 一月 七日 金曜日


 十一時。


 始業式を終え、白鷹中学、高校の生徒たちは続々と帰宅していく。そんな中、運動場の一角では歓声が上がっていた。


ブレザーを脱いで預けると、バッターは左の打席へ。


 対するピッチャーは、サウスポー。彼の持ち味は、リトルリーグ時代から叩きあげられてきた切れ味抜群の変化球。それはこれまでに幾度も見事な三振を打ち取って、チームを勝利へ導いてきた。


 三球勝負だと、ピッチャーが叫ぶ。


 バッターは無言だ。彼は真っすぐに前を見つめて、バットを構えている。


「俺の異名を教えてやる! 俺は……サブマリン後藤だっ!」


 カーンと、小気味よい音。


 ギャラリーが見守る中、白球は大きな弧を描いて青空へ吸い込まれていく。


 バッターは腰を曲げて地面にバットを置いてから、トロトロと一塁の方へ走り出した。


 周囲から、遅れて歓声が湧き上がる。それを耳にして、ようやく状況を理解したピッチャーは力なくマウンドに崩れ落ちた。


「左対左って、バッター有利でしたっけ?」


 坊主頭の少年――山田が怪訝な様子で、隣にいた主顧問の吉田に尋ねた。


「後藤は、プレッシャー弱いからなあ……」


 吉田は顎を撫でながら、ううんと唸った。そもそも後藤は、元々アンダースローの投手ではない。


 きゃあきゃあと黄色い声援を耳にして、山田と吉田は目を向ける。そこには、多くの女子生徒が集まっていた。普段の練習時には、決して見ることのない光景だ。


(いいとこ、見せたかったのか。後藤……)


 マウンドにへたり込んで空を仰いでいる後藤を、吉田は一人憐れんだ。


 バッターはホームへ戻るとマウンドへ向けて一礼し、そそくさと上着を取りに戻っていく。その先には、金髪の少女の姿があった。


 少女は目の前で見たホームランに感激したのか、顔を赤らめ目を輝かせている。


「いいなあ、ヒカル。俺もカワイイ彼女欲しいっすよ~」


 山田がポツリと呟くと、傍にいた部員たちが無言で大きく頷いた。


「だったら甲子園目指せ! ほら! 走れ、走れっ!」


 吉田に急き立てられて、部員たちは走り出す。


 遠ざかっていく背中にかつての自分を重ねて、吉田は目を細めた。


 風は冷たいが、空はよく澄んでいる。


 サブマリン後藤は、マウンドで泣いていた。


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