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ゲノム・レプリカ  作者: 伊都川ハヤト
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3-1 (don't) wake me up ④



 二〇×一年 十二月 三十一日 金曜日


 十三時半。


 ノックの音を合図にして、淡路は眺めていたスマートフォンの画面を仕事の資料からニュースサイトに切り替えた。


 失礼しますと声がして、ドアの向こうからはヒカルとリリカが姿を現す。ヒカルは頭にタオルを巻いて、リリカは長い金髪を高い位置で結んでいる。二人は、エプロン姿だ。


 東條家の大掃除は終えたはずだと、淡路は二人の恰好を不思議に思った。


「えっと……すみませんが、ガサ入れに来ました」


「来ましたー!」


 ヒカルは自分が失礼なことをしている自覚があるので、気が重い。対するリリカはこの状況を楽しんでいて、満面の笑みを浮かべている。


 これはまた楽しい遊びを思いついたなと、淡路は一回り以上歳の離れた少年少女を微笑ましく思った。


 大掃除は終わってしまい、キッチンは珍しくアオイが占拠している。そのためヒカルは手持無沙汰で、リリカの思い付きに仕方なく付き合っているのだ。


「つまり、僕が怪しいものを持ち込んでいないか、二人は心配してるってことだね」


「まあ……はい。そうです」


 淡路はスマートフォンを胸にしまうと、立ち上がって壁際に積まれた段ボールに手を伸ばした。


 淡路の部屋は、元はヒカルの荷物置き場兼作業場だ。ハンドメイドの材料や在庫は、既に廊下の納戸に移されている。


 当初、淡路はアオイの部屋を真ん中で仕切って住む予定だった。だが、そんなことをヒカルが許す訳もない。そのため淡路は、結果的に、当初の予定よりも広く快適な空間を得ていた。


「そういうことなら、調べてもらって結構だよ。ただ、実は僕、まだほとんど荷解きしてないんだ。二人さえ良ければ、今、ついでに片付けてもいいかな?」


「じゃあ、手伝いまーす!」


 リリカは上機嫌で、淡路の元へ駆け寄る。


 それを見て、ヒカルは少しムッとした。随分前から思っていたが、リリカは淡路と距離が近いように思う。


「淡路さん。その箱には、なにが入ってますか? なんだか、随分重そうですけど」


 元々そんなつもりはなかったのだが、急にやる気を出して、ヒカルは箱の一つを指した。

 淡路は、ヒカルが指した箱を床に下ろす。


「なんですか、これ?」


「キャンプ道具だよ。あっちにテントもある」


「へえ……キャンプ」


 リリカは、ヒカルの声のトーンが変わったように思った。


 今度はと、ヒカルは別の箱を指す。

 淡路が箱を開くと、中にはヘルメットやグローブなどが入っている。


「僕、バイク乗るからさ」


「バイク、ですか……」


 リリカは、またヒカルの声に変化があったように思った。心なしか、ヒカルのテンションが上がってきている。


「じゃ、じゃあ、あっちは? あの箱です」


「そっちは、トレーニング用だね。毎朝走らないと、調子が悪いんだ」


「ああ。筋トレグッズかあ」


 箱の中を覗きながら、ヒカルは声を上げて喜んでいる。


(キャンプ、バイク、筋トレ……)


 嫌な予感がして、リリカはヒカルの横顔に視線を送った。今のヒカルは、幼い頃に変形ロボットやミニカーで遊んでいた時と同じような顔をしている。


「淡路さん。あれは?」


 ヒカルは、部屋の隅に置かれた大きなスーツケースを指した。引っ越し初日に、淡路が運んできたものだ。


 開けて良いかとリリカが尋ねると、淡路はハッキリ首を横に振った。


「悪いけど、それだけは触らないで欲しいな。ごめんね」


 どうしてなのかと不思議そうなリリカに、淡路は無言の微笑みで応える。

 その時、不意に、ヒカルは中身に見当がついたように思った。


「リリカ。アオ姉の様子を見てきてくれない? ちょっと、変な音がしてるんだ」


 アオイは夕飯の下ごしらえをしているはずなのだが、キッチンからは激しく打ち付けるような音が聞こえている。徒手格闘の訓練でもしているのかもしれない。


 ヒカルが「自分で見に行く度胸がない」と溢すと、リリカが苦笑して部屋を出ていった。


 リビングの扉が閉まるのを待ってから、ヒカルは再びスーツケースに目を向ける。


「あの。あれって、そういうやつ、ですよね? まさか……全部ですか? 本当に?」


「そうだね。全部だよ。必要だからね」


 淡路の笑顔に、淀みはない。


「……想像も出来ないや」


「大人には、色々あるんだよ。無いと困るからね」


「……すごいな……」


 ヒカルは、妙に感心した様子で頷いている。


 淡路は、ヒカルがスーツケースの中身を卑猥なものだと勘違いしていると気付いて、笑いを堪えていた。


 ヒカルの予想に反し、スーツケースの中には、淡路の仕事道具一式が丁寧に詰め込まれていた。


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