3-1 (don't) wake me up ②
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「――ル。ヒカル」
名前を呼ばれて、赤髪の少年――東條ヒカルはソファの上で目を覚ました。リビングで映画を見ていたはずが、いつの間にか眠ってしまったようだ。
「こんな所で寝たら、風邪をひくでしょう?」
優しい、姉の声。姉のアオイはソファの背もたれに手を掛けて、穏やかな表情でヒカルの顔を覗き込んでいる。顔も声も、いつものアオイと変わらない。ただ、髪と瞳の色だけが、いつもの彼女とは異なっている。それは、内側から強く輝く金色をしていた。
そんなアオイの手に、ヒカルはなにか光るものを見つけた。
ヒカルの視線に気付くと、アオイは頬に手を当てて照れ臭そうに視線を逸らす。
「ヒカル。実はね、私……結婚することにしたの」
「結婚……?」
聞き間違いでないことは確かだったが、ヒカルは確認せずにはいられなかった。昨日までのアオイに、さらに言えば今朝までの彼女には、そんな素振りは全くと言っていいほど無かったからだ。
誰となのかは、聞けなかった。ヒカルが、それを聞く必要も無かった。アオイの後ろからは、直ぐに淡路が現れたからだ。
淡路は左手の薬指に、アオイと同じ指輪を着けている。
「中々言い出せなくて、ごめんね。ヒカル」
「これで僕らは、本当の兄弟になれるね。ヒカル君」
アオイと淡路は、同じ笑顔を見せる。
ヒカルは、アオイになにも言うことができない。ただ心の中では、悲鳴にも似た叫びを上げるのだった。