3-1 (don't) wake me up ①
第三部 progress
一、(don't) wake me up
二〇×一年 十二月 二十八日 火曜日
白鷹高校の生物準備室の地下で、中林は歌を口ずさんでいた。
あのクリスマスの日から、中林は地下室に籠って作業を続けている。しかし疲れた様子はなく、むしろ彼は上機嫌で浮かれていた。
部屋の一角では、照明を落とした壁に星空が投影されている。それは、長野県の山中で撮影されたものだ。中林は、その場所からの景色をよく見知っている。
部屋を満たす音楽は、マイナーな作曲家が作成したものだ。その曲名は、発音しにくいだけでなく完全な造語だったので、それを正確に表記できる者は少なかった。
中林は、その歌を愛している。
十年程前に作成されたというそれは、最近になってネット上に発表されたものだった。購入はその作曲家のホームページのみに限られ、さらに、パスワードを入力しなければ購入画面には進めない。
しかし、そのパスワードはどこにも公開されていないため、購入するためには先ずパスワードを入手しなくてはならなかった。そういった仕掛けもあって、その歌は一部でカルト的な人気を博している。
その歌を口ずさみながら、中林は壁に投影された星々に目を向けた。
太陽系の、その先へ。
歌は、遥か彼方に住まう者たちへ向けられたメッセージだ。気付く者はほとんどないが、それでも幾らかは確かに存在している。
イリスと、中林は愛する者の名を口にした。
中林の脳裏には、長い金髪を風に揺らす少女の姿が浮かんでいた。