初めから。
辺りにいた人たちの目線が一斉に俺の方を向く。俺は恥ずかしさの余り、自分の口を手で塞いだ。
「ドアが閉まります、御注意ください。」
やばい、取り敢えず早く電車を降りなきゃ。俺は足早に電車を降りた。
にしても、何故こんな遠い所に来たのだろうか。電車を降りた後ついその場に呆然と立ち尽くし、考えてしまった。
実は此処、海川町は住んでいる所から片道3時間も掛かるほど遠い所なのだ。
別に、この街に友達が住んでる訳でも無いのに本当に何で............手掛かりといえば自分が持って居るこの藍色の紙袋だけだ。自分が知らない内に誰かから貰ったものなのだろうか、何が入って居たんだっけ。そう想い中に手を伸ばした、その時だった。
バキバキ。
後ろから何かが壊れる音がした。
バギッ、バキバキバキ。
どんどんその音は足元に近付いて来た。すると、瞬間
パキ。
壊れる音では無い、何かが割れる音がして。俺は恐る恐る、自分の足元を見た。
「っ、」
足場が割れて居た。そう気づいた瞬間、さっきとは段違いの速さで罅が入り、
足場が欠けていった。俺は、直感的に逃げなければいけない。そう想った瞬間、今まで出したことがないような疾さで駅のホームを駆け抜けていった。背後からは、そんな俺を追いかけて来る様に、罅割れの音、世界が崩れる音が聞こえる。
俺は周りから白い目で見られつつも、速さの速度を落とさず、そのまま改札を潜った
街を駆け巡って、もう何時間経ったのだろうか。すっかり夜も更け、辺りは真っ暗だ。そして、まだ俺を探して彷徨って居る音がする。
腕時計を見ると、今の時刻は23時。体が重いな。そう想い近くにあった、砂浜で休むことにした。
俺は、砂浜にあった岩に座り、空を見た。嗚呼、あの時読んだ小説にそっくりだ。
空には、救いようがないくらいの罅が入って居た。大体、何故世界が終わるという事がわかったのかと言うと、誰かが書いた小説と、全く同じ状況だったからだ。
タイトルも作者も覚えちゃいないが、なんだか大切なものだった気がするなあ。そんな呆けた事を想いながら、紙袋を漁る。すると中には、
「小説?」
タイトルは描いていなく、中には俺が描いたであろう絵が入って居た。何枚も描いており、自分で感心してしまった。どんな絵を描いて居るのだろう。そう想い自分の絵を見ようと手を動かした矢先、目に入ったのは、
罅が入った自分の腕だった。心臓が鳴る。背後から、音が聞こえる。いや、背後じゃない。よく耳を澄ますと、その音は自分の体から鳴っていた。
バキバキバキ
自分の体に、罅が入っていく時。ようやく理解した。
罅が入って居たのは、初めから、世界なんかじゃなくて、俺だったんだ。何だ、小説と全然違うじゃないか。
空に罅が入って居たのは、俺の目がひび割れて居ただけだったんだ。
体が重かったのは、もう使い物にならなくなっていたからか
最初から、崩壊するのは世界じゃなくて、俺だったのか。
大事な記憶を、忘れてしまったのは、俺が、この世界から、この世界の記憶から、消えてしまうからだろうか。