大切な何かを、
家とは真反対の電車に乗った。何故ならあいつに逢いにいこうと思ったからだ。
あいつと言うのは、俺の幼馴染で中学校一年生まで同じ学校だった、世間一般で云う友達って奴だ。家同士も隣で、親同士も仲が善かったし、あいつと俺もよく互いの家に泊まりに行くくらいには仲が善かった。
中学に入ってからは、お互いに部活やら委員会やらで忙しく成り会う機会こそ減ったものの、部活の休みが被った時は一緒に遊んだり、某トークアプリで通話をしながらゲームをしたりして、なんとか一緒に過ごせる時間を作って来た。
有る時通話のし過ぎでお互いの親が自分たちの部屋に、全くおんなじタイミングでしかも一言一句おんなじ言葉で怒鳴り込みに来た時は、腹が捩れるんじゃないかと言うレベルまで爆笑したのを、今でも憶えて居る。本当にあれは傑作だった。
まぁそんなこんなで中学に入ってからはもお互いに善い感じの関係を続けて来た。
こんな事を続けて、早くも2年が経とうとして居た頃
12月。あいつは言いたいことがあると、マンションの非常階段に俺を呼びつけた
「ねえ唯斗。」
「あ?んだよ」
「僕ね、転校するんだ。」
「ほーん」
「ちょっと。大事な幼馴染が転校すると言うのにその反応はなんだい。冷たすぎやしないかい。」
あいつは少しむすっとした顔で言った。
「だって、お前が言いたい事ってそれじゃないだろ。」
少し目を見開いた後、少し笑いながらあいつはこういった
「よくわかったね。さすが僕の幼馴染だ」
俺は少し誇らしくなった。
「で?用件は」
「ええとね、僕が書いた小説に絵をつけて欲しいんだ。ほら、君は絵が上手いだろう
あ、でもねこの小説をしっかり読み終えた後描いて欲しいな。嗚呼、期限は無いからね。ゆっくり描いてもらって構わないよ。」
相変わらずよく回る口だなと想った。でも俺はそこで有る疑問を思い付いた
「確かに承ったよ。でも、全て読み終えて絵も描き終わった頃、お前が居なかったら、この小説はどうしたら良い」
そうしたらあいつは突然立ち上がりこう言った
「そりゃあ君。僕が居るところまで、届けに来てくれよ。嗚呼、あのね、取りに行くのがめんどくさいとかじゃ無くて、その、実を言うと、また、僕に逢いに来てほしいんだ。この小説を理由にして。ほら。知らない土地に1人と言うのは寂しいだろう?だから僕の最後の我儘を聞いてくれ。約束だ。必ずこの小説を届けに来てくれ」
顔は見れなかったが、なんだか寂しそうに見えた
「わかった。約束だ。」
「善かった。あのね唯斗」
あいつはこちらを振り向いて、
「僕はね、君の、」
「次は終点海川町です。電車を降りる際にはお忘れ物に注意してください」
嗚呼、いつの間にか寝ていたのか。なんだか懐かしい夢を見ていたような気がするな。
そんな夢現な気分のまま、手元に有る紙袋を見た。
嗚呼、そうだ、俺はあいつに小説を届けに来たんだ。
...................あれ。あいつって
「ドアが開きます。御注意ください」
「あいつって誰だ」