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ある朝目を覚ますと、両親からドラゴンの卵を託されていました ~これは後に世界を救った双璧として歴史に名を残す2人がその世界に戻るまでのお話

作者: 桂木真依

「なんっだっこれ!」

18歳の誕生日の翌朝、昨夜家族でしてくれたパーティの後がすっかり片付けられたリビングに、父親が残した手紙を読んで、オレは思わず大声をあげた。

「どうしたの?」

わなわなと震えるオレに穏やかに問いかけてきたのは、一緒に朝のランニングから帰ってきた、幼馴染で親友の中條春樹だ。

 説明する言葉と気力を失ったオレは、ハルに見たことがないほど大きな何かの卵に添えられた父親の手紙を差し出した。

「オレは先に帰る。この卵を孵して後から帰ってきてくれ 父。シンプルだね」

「シンプルとか言う問題か!」

また大声を出してしまったオレを、

「ドウドウ」

ハルがなだめる。オレは馬か。でも少し落ち着いた。

「カイも18歳になったから、エマさんが先に帰った異世界に帰れることになったんだね」

「……そんな当たり前のように異世界に帰れるって言うなよ」

「どうして?今更じゃない?」

それを言ってくれるな。

 我が家が普通じゃないことはわかっているんだ。母さんは異世界に単身赴任中だし、山を買ったという父さんに連れていかれたその山で、オレは体術剣術、はともかく魔術の訓練をさせられた。そう、魔術だ。この世界ではありえない。

 こんなことを外で話せば、夢見がちか何かの病に罹患したと思われるだろう。オレの年だとせいぜい中二病か高二病くらいかもしれないけど、ともかく外では話せないけど、物心ついたことからそれが当たり前だったのだ。両親やひいては自分が、この世界の理から外れた存在であることは察しがついていた。

 それをいつかは異世界に帰る身だからとすんなり認めたくなかったのは。

「オレが異世界に帰ったら、お前はどうするんだよ」

生まれたときから隣の家に住んでいるハルの両親は、ハルのことを幼いころからほったらかしだ。ハルはうちの両親に育てられたようなものだ。ハルの両親はお金だけは出してたらしいけど。そんな兄弟みたいなハルを、そんな環境に残していけない。

 そんなオレの心配をよそに、

「ああ、オレのことを心配してくれたのか」

ハルはからっと笑った。

「大丈夫、オレも帰るから」

「え?」

「オレも異世界流れだから。1人だけで来たけど」

何でもないことのようにハルは言う。だけど、その後その表情が強張った。

「というより、オレが流されたから、エマさん達もここに来る羽目になったんだ。だから」

「なーんだ、なら良かった」

きっと自分を責める言葉を紡ぎだそうとしたハルを遮った。それに、この言葉が今のオレの素直な感想だし。

「早く教えてくれれば良かったのに」

だったら、俺も異世界に行く、というか帰ることにそれほど抵抗はない。……本当はずっと、どこかこの世界に馴染めないものを感じていたんだ。

「……そうか」

ハルは安心したように笑って、頷いた。

 そして、

「だけど、オレも一緒に訓練をしてたんだから、気づいてたと思ったよ」

そう続けた。……確かに。

「……そういうことなら、この卵を孵して、あっちの世界に帰らなきゃな!」

話を変えようと、やっと卵に注意を向けたところで、何やら冊子が卵のすぐそばに置いてあることに気が付いた。父親のあまりにシンプルな置手紙への怒りで見落としていたらしい。

 その表紙に書かれたタイトルは、

「ドラゴンの卵の孵し方、か」

ドラゴンかー。またいかにも異世界なものの名前が出てきた。

「魔力をこまめに与え続けること、だって」

横から覗き込んだハルが読み上げる。いくつか注意事項なんかが書いてあるけど、基本的には、それに尽きるようだ。

「そういうことなら」

オレはそっと卵を手に取った。とたんきゅっと魔力を吸われる感触があった。

「おおっ」

さっそく。両親曰く、オレの魔力は規格外に多いらしいから、どんどん魔力を与えていこう。これは思ったより早く卵は孵るかも。

「大丈夫なの?」

ハルが心配そうな表情をしているけど、大丈夫だ。

「全く問題ない」

「ならいいけど……」

「そんなにかからないと思うから、このままうちで過ごさないか?」

一緒に異世界へ帰るなら、もう取り繕うこともないと思う。

「そうだね。きっとあの人達は僕がいないことにも気が付かないと思うし、周りの目を気にする必要ももうないしね」

ハルも少しの間首をかしげて考えた後、頷き、

「じゃあ、ちょっと最後の外出の準備をしてくる」

そう言って、一度隣の家に戻っていった。

 それから、卵を抱えてせっせと魔力を注ぎ込む生活が始まった。学校?体調不良で欠席すると父親が連絡済みだった。まあ、もうこちらの世界の学校に通ったって仕方ないからな。

 ハルは一応学校に行ったり、オレの両親から教わっていたという、魔力循環の訓練をしたりしていた。オレとハルの魔力は属性が違うらしく、ハルの訓練方法もオレのとは違うそうで、オレの両親は、昔からハルには魔力循環を日々するように教えていた。考えてみれば、ハルも魔法を習ってたんだよな。何であのときのオレは、ハルをこの世界においていくことになると思い込んでいたんだろう。

 しかも、卵に魔力を注ぎ込む間の休憩に、ハルと話したところ、ハルは両親からオレよりも本来属する世界の話を教えられていたらしい。父よ、母よ、どういうことだ。オレにだけ教えてくれていなかったなんて。しかし、そんなオレの不満を見透かしたハルに、

「カイに教えると、外の世界との違いと折り合いがつけられなそうだからじゃない?」

と言われて、ぐうの音も出なかった。確かに我ながら、あまりに違うらしい、本来属する世界と今の世界の折り合いをつけられるほど器用じゃない。

 がっくりと項垂れたオレに、ハルは、

「それがカイのいいところだよ」

と言ってくれたけど、素直に褒められたと思っていいものか。そう思いながら、魔力がだいぶ回復したのを感じて、魔力の注入を再開した。

 すると、

「「お」」

卵がうっすらと光を放った。卵から反応が返ってきたことに俄然やる気が増したオレは、ぐっと魔力を卵にさらに送り込んだ。

 今度は、

「「おおっ」」

卵にピキピキッとヒビが入った。いよいよやる気が増したオレはどんどん魔力を送り込み続ける。オレの魔力が吸収されるにつれて、ヒビは大きくなっていった。

「そろそろいいんじゃない?」

魔力の放出がキツくなってきて、卵の中からもヒビを大きくする力を感じ始めたところで、ハルに言われて、オレは魔力を送り込むのを止めた。

 2人でじっと見守っていると、内側からどんどんヒビが大きくなっていって。

「キュイ!」

中から何かが飛び出してきた。

「うわっ」

とっさにのけぞったオレのほうへ、それは飛びついてきた。

(ごしゅじんさま!ごしゅじんさま!)

これは脳内に直接語り掛けているというやつだろうか。それにしても、

「ご主人様?」

少なくとも今この世界でオレの周りではあまり聞かない言葉だ。

「ドラゴンは、卵に魔力を注ぎ込んだ人を主人だと決めるらしいよ」

ハルに言われて改めて、卵から飛び出したものをみると、確かにそれはドラゴンとしか言いようのない生き物だった。ファンタジー映画なんかで見たことがあるのより相当小さいけど。

「オレがこいつの主人ってことか」

(なまえ!)

オレが情報をかみ砕いていると、ぴたっとオレにへばりついたドラゴンが催促してくる。

「名前をつけろってこと?」

(そう!)

「うーん……」

期待一杯のキラキラした目で見られて、思い悩む。名づけは最初の贈り物って言うからな。いい名前をあげないと。

「……エアスト。エアストっていうのはどうだ?」

悩んでいた頭の中にふっと浮かんだ言葉を口にすると、

(いいね!)

小さな小さなドラゴンは喜んでオレの周りを飛び回る。

「最初のドラゴンと言われてる伝説的なドラゴンと同じ名前だね」

 隣でドラゴンとオレを嬉しそうに見ていたハルが、教えてくれる。よく知ってるなと思ったオレに、

「僕は子供のころから、異世界についても教育される必要があったんだよ」

ハルが何でもないこのように言って、微笑む。

「教育される必要?」

聞き返したオレに、ハルが答えてくれる前に、エアストが、

(じゃあ、かえろう!)

語りかけてくる。

「帰ろうって、そんな簡単に……」

(だいじょぶ、ぼくがつれてってあげるよ!)

戸惑うオレの頭にエアストが乗って、得意げに言い放つ。

「連れてってあげる?」

オレは、頭にエアストを乗せたまま首をかしげると、ハルが、

「ドラゴンには界渡りの力があるんだ」

説明してくれた。さらに、

「……つまり元々の世界に渡る力があるんだ」

オレが、かいわたり、とは?となったのを察したらしく、説明を付け加えてくれた。

「なるほど?」

わかったようなわからないような。だが、今のオレは本来属するその世界の力のことはよくわかっていない。とりあえず受け入れることにして頷いた。

「何か持っていくものはある?」

「……特にないな」

 この世界の物を持っていっても役に立たない気がするし、両親が先にいて、ハルが一緒に行くのなら、特に持っていきたいものはない。万一必要なものがあるなら、両親が持って行っていると思うし。

「ハルは?」

「僕もないよ」

あっさりとハルも頷いたので、

「じゃあ、エアスト、頼むよ」

頭の上に乗ったままのエアストを見上げるようにして、頼む。

(わかったー!じゃあ、ハルと手をつないで!)

「おう」

オレがハルと手をつなぐと、

(ちょっとめをとじててね!)

エアストが頼んだので、オレは素直に目を閉じた。すると、すぐにまぶたの裏に強い光を感じる。

 光を感じたままエアストを頭に乗せて、ハルと手を繋いで、どれくらいの間そうやって立っていたのかはわからない。時間の感覚を失ったまま立っていると、やがて、

(もういいよ~!)

エアストののんびりとした声がした。……あと何だかガヤガヤしたたくさんの人の気配を感じた。

 そっと目を開けると、

「なっ……」

そこには、数えきれない人々がいて、なぜかこちらに向かって膝をつき、頭を下げていた。

「お帰りなさいませ、ハルトヴィン様。カイ様」

代表なのか、前列の中央にいた人がオレたちに向かって言う。

「ああ、待たせたな。しかし、こちらの世界で役に立つことも身につけてきたつもりだ」

 ただただ茫然と突っ立っているオレの隣で、ハルが貫禄たっぷりに答えている。さすがだ、ハル。麻痺した心の中で、それでも感心していると、新たな登場人物が現れた。

 その人は、子供のころにみた、ファンタジー映画の中のエルフの女王にそっくりだった。美しさと言い、貫禄と言い。

「母上」

ハルが小さな声でつぶやく。あれがハルの母上なのか。その人は、冷静な、それでも喜びを隠しきれない様子で、まっすぐにハルに向かって歩いてくる。

「陛下。ハルトヴィン様のお帰り、お喜び申し上げます」

その場の人々が、今度はハルの母上にいっせいに頭を下げている。

 ……ハルの母上が陛下?父よ、母よ、どういうことだ。それは確かに特に幼い頃のオレにこの世界とあの世界の折り合いをつけることは無理だったとは思う。思うが。それにしても何も教えていなさすぎじゃないのか。場が喜びに溢れる中、オレはまだ姿を見せない父母に、心の中で訴えたのだった。


 元々属する世界に渡るために孵さなければならないドラゴンの卵をろくに説明もないまま両親に託された少年と、共に帰る親友という話の設定を頑張って考えている夢を見たので、せっかくなので形にしてみました。この後はハルを異世界に飛ばした相手と戦うために、世界を浄化してまわって敵の力を削いだ後、ラスボスと決戦!だと思います。


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