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星空の下で  作者: 白川泉
折れた竹刀
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十月に入って間もない日の昼近く、戸川学園高等部三年の加山祐一は頬杖をついて西側の窓の外の景色を眺めていた。


戸川学園のある東部州破魔郡森田市は、州都の東都市から北西に車で一時間半ほどのところにあり、南東部は東部平野に属する平地だが、戸川学園のある北西部は東部山地の突端にあたり、平地より三十メートルほど高くなっている。


そのため三階の西側の窓からは深浦湾から屹立する丹野山脈が見え、さらにその向こうには霊峰不二も見える。

もっとも、丹野山脈は西隣の相武地方にあるから雨が降っていなければいつでも見えるが、霊峰不二は隣の中部州にある山だから、今日のように湿度が少なく空気が澄んだ日でなければ見ることができない。

とはいえ、森田市の西隣の加山市に生まれ育った祐一にとっては、丹野山脈も霊峰不二も見慣れた風景ではある。


だが、そうはいっても、青い空の下に見える蒼緑色の丹野山脈と白っぽい霊峰不二は、十八年間見てきた祐一にとっても、やはり美しい風景だ。


美しいといえば、祐一の右斜め前の席に座って真面目に授業を聞いている森川恵里香の後ろ姿も美しい。もちろん美しいのは後ろ姿だけではない。父方の祖父が北欧出身のため、整った彫の深い顔も美しく、メリハリの利いた体の線も魅力的だ。

その恵里香と祐一は、ほとんど戸川家で同棲しているような状態だが、それを咎める者は戸川家にも森川家にもいない。まだ婚約はしていないが、数年後には二人が結婚することを両家の親が認めているからだ。


いや、認めているというより、祐一の母親の実家である戸川家と、恵里香の母親や祖母の実家の森川家が、二人を結び付けたのではないかと祐一は思っている。それでも、恵里香が気に入っている祐一は、たとえ誰かの計画によって結ばれたのだとしても、歓迎こそすれ拒否するつもりは全くなかったが。


もっとも、二人は赤ん坊のときから一緒に育ってきたため、祐一にも恵里香にも「同棲している」という意識はなかった。

むしろ祐一にとって恵里香は姉のような存在で、夫婦同然の関係になっていても、その姉のようだという感覚は続いている。


それは恵里香の方も同じらしく、祐一が十八歳になったいまでも、恵里香は子供の時のように祐一の世話を焼きたがる傾向があるのだ。


他人から見ると、大人になっても弟扱いされている祐一が恵里香に文句を言わないことが、不思議に思えるらしい。だが祐一自身は、実際に恵里香の方が七か月早く生まれているうえ、そもそも世話を焼かれることが不快ではないため、恵里香との関係を変えたいとは思っていなかった。

二人が通っている戸川学園は、正式には「学校法人戸川学園」という名称で、森田市北西部にある戸川団地の最も奥まった場所に建っている。そのため戸川学園は、最寄り駅の戸山鉄道戸川団地駅より三十メートル高い位置にあり、戸川団地の外から来る生徒は三十メートルの高低差がある坂道を上って登校しなければならなかった。


もっとも、駅と団地を結ぶ透明な壁と屋根で囲まれたエスカレーターがあるため、通学はそれほど大変ではないという。エスカレーターに乗って、きれいに整えられた街路樹を眺めていれば五分ほどで戸川団地の入口に着くからだ。エスカレーターを降りてからは、団地に建つ広い敷地と緑豊かな庭を見ながら十分ほど歩けば学園に着いてしまうため、風や雨が強い日でなければ気にならないようだ。


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