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47話 贈り物に悩む

 月日は流れで3月、3年生がもう少しで卒業し、その後は修了式もある。そんな忙しい月に、和樹は学校の行事なんかよりも悩んでいる事があった。


「ホワイトデーって何返せばいいの?」


 ホワイトデー。カップルまたは義理でチョコを貰った男子達がお返しとして何かを渡す日。

 それはチョコやらクッキーやら、食べ物以外でも、それは人それぞれ違うだろうが、貰った以上、何かしら返さなければ男子としては情けなくなる。

 

 和樹はホワイトデーの前日の昼休み、まだ何を返すか決めていなかったので、取り敢えず友樹に聞いてみたわけだ。


「さあ?俺はお菓子は作れねえし、何か市販のやつ買うかな」


「私はくれるなら何でもいいよー」


 茜はバレンタインデーの時は義理チョコをくれて、茜にも返さないといけない訳だが、気を使ってくれたのか何でもいいと予め言ってくれた。

 だからといって適当に選ぶのは男としてどうなのか、結局何を返せばいいかわからず再び悩む。


「……本人に聞こう」


 そもそも別にサプライズのようにしたいわけではない。単純に貰ったお礼がしたいだけなので、それなら本人に聞いてしまったほうがいいのではと考えた。


「雫、ホワイトデー何が欲しい?」


「……別に私は和樹がくれるなら何でもいいぞ」


 少し頬を赤らめながら言う雫。その顔に魅力を感じない訳はない。だが今は顔が綺麗だとかを考えてる場合ではない。

 雫は気を使って何でもいいと言ってくれるが、これは魔法の言葉で、実際言われれば一番悩む言葉でもある。

 何でもいいと言われるが、それで適当に選んでしまえば貰った方は期待していなかった物が来て嫌な顔をしたりする。

 雫はそんな顔はしないだろうが、貰ったクッキーはとても美味しかったので、それに見合う物を返したい。それ故に何でもいいと言われて更に悩んでしまう。


「……本当に何でもいいのか?何でもいいぞ?好きな物を言ってくれたらいいんだ」


「そうは言ってもな……私はただ和樹に貰ってほしかっただけで、別に見返りはそこまで考えていなかったぞ」


「……いいやつ過ぎて困る」


 思わず好きになってしまいそうになる程良いやつだが、後ろからの視線により、我に戻った。


「リアラは?何が欲しい?」


「私は和樹様がいてくれればそれでいいです」


「……駄目だこりゃ」


 身近にいる女の子の欲が少なすぎて和樹は困り果てる。そもそもリアラはまだしも雫の好みがまだ分かっていない。勝手な想像ではリアラと同様、甘いものは好きだと思う。だがそれだけでは情報が少ない。


「雫、甘いものはいけるか?」


「大好きだぞ」


 予想通りで助かった。これで嫌いと言われると甘いもの全般NGとなってしまう。そうすれば物かなんかを返す事になり、余計に悩んでしまう。


「和樹、今日一緒に選びに行くか?前園も今日練習オフらしいから一緒に行こうって誘ってたんだ」


「……そうだな、俺も行くわ」


 結局悩んでも決まらなかったので、友樹の誘いを素直に受ける事にした。



 ―――――――――――――――



 学校が終わった後、和樹は友樹と前園と一緒にショッピングモールまで来ていた。周りには一人でホワイトデーのお返しを買いに来ている男や、彼女と一緒に選んでいる男もいる。

 色恋沙汰が人生で一度も無かった和樹はショッピングモールで商品を見てもいまいちピンとこなかった。


「前園は何買うんだ?」


「そうだな、まあ無難にチョコかな。あいつチョコ好きだし」


 前園はチョコを買うらしい。確かに相手の一番好きな物が一番いいのだろう。


「悩むな……」


「俺達先に買ってるからな」


 友樹と前園はそれなりに高そうなチョコとお菓子を持ってレジの方へと向かった。何を買えばいいかわからずに取り残される和樹。


「……どうせなら喜んでほしいしな」


 茜は友樹と言う彼氏がいる為、まだ楽に考える事ができる。


 雫は今となっては和樹に敵対心を持っているわけではない。むしろかなり好意的に接してくれている。あれだけ男が嫌いと言っていたのに、好意的に接してくれているのは女っ気が無かった和樹としては嬉しく思う。

 リアラも毎日尽くしてくれる。疲れていても決して表には出さず、和樹の事を気にかけてくれている。

 どちらにも喜んでもらいたいが故になかなか決まらない。予算的には、毎月多めに振り込んでくれているお金をほとんど使っていない為、かなり余裕はある。しばらく商品の前で悩んでいると、周りの客からも視線が集まってくる。

 特に髪型も気にしていなかったので、他の客には根暗な男がホワイトデーのお返しを探している変な男に見えているだろう。


 店員に聞くことも考えたが、接し慣れている人としかあまり話せない和樹にとって、店員に自分から話しかけるのはハードルが高い。他人に話しかける時は感情的になった時ぐらいしかない。


「まだ悩んでんのかよ」


 友樹が先に戻ってきたようで、未だに悩んでいる和樹に声をかける。


「帰ってもう一回何がいいか聞くわ。最悪明日一緒に買いに行く」


「んーまあそれもいいんじゃね?」


「よし、帰ろう」


「おいていくなよ」


 前園の存在を忘れていた和樹は先に帰ろうとしてしまった。


「悪い悪い」


「あ、ちょっとランシュ見てきてもいい?走るメニューやたら多くて靴がすぐ駄目になるんだ」


「ああ、いいぞ」


 前園に二人はついていく形で、スポーツ用品店に向かう。

 スポーツ用品店についた3人はランニングシューズのコーナーに向かう。すると色んな種類の靴があり、ランニングシューズの隣には野球用のトレーニングシューズなどもある。


「……俺も買おっかな」


「和樹も買うのか?何で?」


「いや、ランニングしようかなって」


 和樹は普段はあんまり運動はしない。なので少しだけだが体重が増えていた事を気にして、朝にランニングをしようと考えていた。


「ならこれとか走りやすいぞ」


 そう言って見せられたのは、有名なスポーツメーカーのランニングシューズ。デザインも良く、どうやら靴底がクッションのようになっていて足に負担がかかりにくい物らしい。


「値段も安いな」


「だろ?俺もこのメーカーの靴が好きなんだよ」


「……これ買うわ」


 値段は3000円程。何故これほど安い値段で売られているかは分からないが、かなりお得なので買わない手はない。

 和樹はレジに向かい、ランニングシューズを購入する。ホワイトデーのお返しを選びに来たはずが、ランニングシューズだけを買って帰ることになってしまった。





 

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[一言] 御返し悩むよね~わかる。 にやにやしながら、読ませて貰ってます
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