第1話:参上!赤いロボット
こんにちは。普通の王道ロボット小説です。脚本下手ですので、話しは難しくなりません。
空気も水も無い星、月。無数にある穴はクレーターと呼ばれる隕石の落下跡だ。
その一つの中心に蠢く楕円形の影は、苦しみを交えた呻きの声上げていた。
「オレは……まだ死なん……残念だったなぁ、レッシンよ……」
禍々しさを醸し出す黒い霧を纏うそれは、ぐにゃりと腕らしき物を黒い塊から生やすと、視界に捉えた青い星に掌を向けた。
「目的の星……。我が僕よ、あの星を……巣くえ」
「御意」
赤黒い丸い光がパッと掌から飛び出し、漆黒の宇宙を駆ける。一直線に向かう。青く輝く星――地球へ。
「あちぃぃ。夏ってうのはなんでこう暑いんだぁ?」
丑三つ時。
自然に対し愚痴をこぼしながらも、左手でパジャマの襟辺りを掴み、パタパタと扇ぐ。余った右手で眠い眼をこすりながらも、足先は家屋から離れたトイレに向かっていた。
「婆ちゃんの家はクーラー無いし、便所は遠いし……」
幾多の虫の声に混じって、ギシギシと軋む床が奏でる不協和音。さらに、それ全体を照らすのは人工的な灯りではなかった。
紛れもない月明かりに、ふと夜空を見上げる龍河原シンヤはマジマジと丸い月を見た。
「どうも明るいと思ったらそっかぁ、今夜は満月なんだ」
感慨に耽り一人で納得していると、月の丁度中心辺りから、別の光と思われる物がハッキリと見えた。不思議に思っていたのも束の間、その光は奇怪な音を発しながらも、屋根越しにシンヤの頭上を過ぎ去り裏手の小山に墜ちたようだった。地を穿つ軽い地鳴りが辺りに響くのを合図に、シンヤの好奇心は既に頂点に達していた。
「うっひぁ!絶対UFOだよ、ゆーふぉ!! 宇宙人と友達になってこよーと」
前に観た何かのドラマを思い出し興奮しながらも、靴を用意し颯爽と裏手の小山を目指していった。
草木が生い茂るが、微かに踏みならしてある坂道を駆け上がっていく。身体を動かすのが得意なシンヤにとってみれば、息を切らすまでもない道だ。腰辺りまで伸びた草を五月蝿いと感じながらも、急に開けた場所に出た為か、気持ちは益々高まるばかりである。
「UFOはどこかなぁっと」
円盤状のイメージを覆す事なく、シンヤは辺りをキョロキョロと探すが、何も見当たらない。まさか夢かと自問自答しながらも、腕組みし歩を進めた刹那、突然の上下の分からない感覚に困惑した。
「イテテ。そうだ、穴があったんだっけ」
見事に尻から転げ落ちたシンヤは、先程まで自身がいた場所を見上げた。
穴は深さ2メートル、直径は10メートルはあろうか、浅く広く凹んでいた。
パジャマに付いた土を払っていると、突如としてシンヤの目前に、あの赤黒い光が飛来し口を訊いたのだ。
「お前はこの星の人間か?」
「え?うん、そうだよ。友達になろうよ、宇宙人さん」
サッカーボール位の大きさの光に、シンヤは屈託の無い笑みを浮かべるも、
「友達とは何だ?」と返されてしまう。
唖然顔としたシンヤに続けて言う。
「我が名はドーレイ。セイフーク様にお仕えする星魔だ」
「アラ?私もいるわよ」
ドーレイと名乗った光が分裂すると、同じものが出て来た。
「私はメイドー。セイフーク様にお仕えする星魔よ。まぁ、ぶっちゃけ悪の宇宙人だけ――」
「何を言うメイドー」とドーレイは遮る。
「我は義の為にやっている。悪などとは言語道断だ!」
「なによ!本当の事でしょ!」
宇宙人と友達になる筈が、只の痴話喧嘩を聞かされるとは予想外である。シンヤは、その光景を尻目に踵を返して、転げ落ちた場所を容易に登り終えた。
「そういえば、小便したいんだった」
萎えた気持ちから尿意を再び覚え、一応茂みに隠れてからパジャマのズボンを下ろした。
「メイドー、先程の人間は?」
ドーレイは慌てた様子で問うた。
「さあ?」
「マズいな、我等の正体を見られてしまった」
「ついでに名乗ったしね。まぁ、何かに融合すればいいんだし、気にしなくていいと思うけどね」
ふむとドーレイは納得すると
「では、最初の戦を始めるか」と言い、光の球体である彼等と同色の、稲妻に似た光を身近な樹木に照射した。
放尿中のシンヤの背後から伝わる地響きに、バキバキとあからさまに木々がへし折れる音を知覚した。
「なんだ?」
パンツを履き直し振り向くと、月夜に浮かぶゆうに30メートル程はあろう巨大な影があった。
「少年よ」
それとは別に、誰かに唐突に話しけられ、声の方に顔を向けた。
「えぇぇとタヌキ?が、喋ったの?」
紛れもないタヌキなんだが、黒のコートを着用し、後ろ脚で立っているではないか。
「儂はレッシン。故あって今は狸だ。急ぎの頼みがある、この腕時計を着けてくれ」
懐から赤、黄、青でカラーリングされたデジタル表示の腕時計を、グイッと突き出してきた。
「くれるのか!? サンキュー!」
レッシンと名乗ったタヌキから、腕時計を頂戴すると早々と左腕に着けた。
レッシンは、影でほくそ笑むがシンヤは至って気づかない。
「なかなか、カッコイイジャン」
「さて、気に入った所で、赤いスイッチを押せ」
「なんだよ、タヌキのクセに生意気だな」
渋りながらも言われた通りに赤いスイッチを押す。
刹那、デジタル表示の液晶から光が溢れたかと思うと、地から足がはなれ身体は空中に浮いていた。
「オイ!何だよコレ」
シンヤは手足をバタつかせ、レッシンに怒りを向けた。
「あの、星魔獣を見事倒してみせい。そしたら説明してやる」
「星魔獣ってあの怪物の事か?」
「そうだ」
相槌を打ったレッシンの姿を見るより速く、シンヤの身体は光に包まれその場から消えていた。
「これってコクピットって奴か!?」
シンヤの転送先は龍の形をしたロボットの中だった。
全身が赤で基調され、胴はくねっており蛇の様に長く、四肢の前左脚に半透明の緑色の球体を掴んでいる。
目前の小型モニターにレッシンの顔――といってもタヌキだが――が表示されると、シンヤは開口一番に言う。「オイ!俺をハメやがったな!」
「化かされたと言ってくれよ」
まさに、ぐうの音も出ない一言だ。
「そいつは、フレイムドラゴン。操作も何となく分かるだろう?」
確かに、ロボットを通じて意志みたいな物を感じる。
「分かったよ。なんかゲームみたいな感じだし、あの木の怪物を倒せばいいんだろ!」
「なんだ!?アレは?」
ドーレイは見た。
月を隠す暗雲から、くねりながらも宙を舞う赤い龍を。「レッシンのロボットだよ。星魔獣ジューモック、ヤっちまいな」
「アァァァァ!」
メイドーの合図で木の怪物のジューモックは雄叫びを上げた。
「先手必勝。喰らえ、バーストボンバー!」
両スロットルを前へ突き出すと、フレイムドラゴンの口から、火球が勢いよく発射されジューモックに直撃した。
元が木の為か、かなり効果があるようだ。
「よっしゃあ!もう一発いく――」
刹那、コクピット内を激しい揺れが襲う。
「ひぇははんだぁ」
涙目に舌を噛みつつも、機体チェックを行うと、ジューモックから伸びる蔦がフレイムドラゴンの下半身に巻き付いていたのだ。
スロットルやペダルを操作しまくるが、ビクともしない。
「クソ!動かない」
その状態でジャイアントスイングよろしく、フレイムドラゴンは振り回され投げ飛ばされた。
「イテテ、空中戦は危険だな」
シンヤはモニター横のコンソールに表示されてるOKの文字を押す。
「行くぜ!チェンジ!フレイムドラゴン!」
四肢の付け根が折りたたまれている箇所が勢いよく伸び手足を形成、下半身が180度回転と同時に胴は縮小。尻尾は背面に折りたたまれ、頭部は腹側に折りたたまれる。人の形を真似た頭が龍の首の付け根から出て、たちまち人型のロボットに変形した。
そのまま地を駆け、ジューモックに蹴りを見舞う。
「ドラゴンキィック!」
「オォォォ」
ジューモックはその衝撃で地に仰向けになった。
ジューモックの約半分の大きさでありながらも、パワーは遥かに上だ。
「よし!トドメだ!ドラゴンソォォド!」
フレイムドラゴンの左腕に仕込んである龍の宝玉が光輝き、その光が天まで伸びる。
伸びた光を中心に暗雲が収束する。刹那、それは灼熱の刃と化し、炎纏う剣は大地を突き刺した。
フレイムドラゴンが右手でゆっくりと力強く抜くと、更に火力はこれでもかと増す。
ドラゴンソードを右水平に構え、ジューモック目掛けて地を滑り出した。
刀身の炎は龍へと姿を変える。
「うおぉぉ!フレイムスラァァシュ!」
気合いの掛け声と共に、ジューモックを袈裟懸けに一刀両断。
「アァァァァ!?」
ジューモックの断末魔を後ろに、虚空に振り払ったドラゴンソードの炎は、光の粒になり空中へ消えていった。
「クソ!レッシン、この借りは返すぞ」
「ドーレイ、先ずは私達の身体を手に入れてからよ」
各々捨て台詞を吐くと、朝焼けに染まり始めた空に消えていった。
重い瞼を開けると、弱い日差しが飛び込んできた。
「あれ?」
スッキリしない頭に問う。
ロボットは?怪物は?タヌキは?
しかし答えはなく、辺りからは虫の鳴き声しかしない。
「やっぱ、夢だったのか?」
睡魔と精神的な疲れか、シンヤはその場で寝息を立ててしまっていた。
しかし、左腕に着けてあるモノには、4:30の数字がきっちりと刻まれていた。