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TOKYO KNIGHT CRUISE

挿絵(By みてみん)



「あぁ~しんどいな」



 ゴールデンウイークが近くに迫った金曜日、私は連日の残業にくたびれ果てて思わず思った事を口にした。夜の中心街は「これから呑むぞ!」とネオンをぎらつかせて振る舞っている。



 私は背伸びをしたのちに腕時計をみる。



「まだ大丈夫か」



 私の趣味はテレビゲームだ。ソレしかないって程ソレに没頭している。それは学生時代からそんな自分だったと言ってもいい。



 学校は全て進学校で家に帰っても家庭教師が自分の部屋で待機しているような毎日。大学はそれなりの有名な所に入学したが、研究活動に勤しむ学科で連日のレポート提出に追われたものだった。おまけに東京へ一人上京したものだから、家賃や生活費を維持するためにほぼ毎日の深夜バイトにも励んだ。



 私は生まれた時から自由でないような気がした。そんな私の唯一の癒しが僅かながらの時間でものめり込めるテレビゲームの世界だった――



 私が手にしたのは「TOKYO NIGHT CRUISE」という最近発売されたVRゲームだ。



 プレイヤーは鳥となって夜の東京の空を翔るというものだ。忙しいばかりで、夜景を楽しむことなんてない私だったが、その鮮やかさには田舎人ながら憧れて惹かれるものがあった。故に入手してプレイしようと意気込んだものだった。




 しかし私が購入したのは「TOKYO KNIGHT CRUISE」という全くの別物だった。パッケージが東京タワーの映える夜景を飛ぶ鳥とは別の漆黒騎士が馬に乗って槍を掲げている物だったのだ。



 疲れ切っていたがゆえに誤字認識したのか? それにしてもパッケージが全く違う別物である。でも背に腹は代えられないかなと思ってプレイする事にした。



 説明書を読んでみたがコレもどうやらVRゲームのようだ。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 本ゲームは東京の世の中を逞しく生きる人間となるリアル体感型のゲームです。あなたの「頑張り」により彼らが薔薇色の人生を送ることができれば、あなたもまた薔薇色の人生の送ることができます。



 ゲームに登場するオペレーターと一緒に目の前にでてくる課題をクリアしよう。



 ※このゲームはあなたの生きる実生活にも影響を及ぼしてしまう可能性があります。ゲームのやりすぎには注意しましょう



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 何コレ? 馬鹿馬鹿しいなぁ……と思いながらも、さっそくゴーグルをつけてプレイ画面に入る。赤ちゃんなのか? 母親らしき人物が私を抱えて喜び泣きをしている場面がでてきた。



『おめでとうございます。貴女は生まれました。これから私の言う通りコマンドを押してゲームを進めてください』

「えっ? どういうことですか?」

『いいから私の言う通りコマンド押してゲームを進めてください』

「えっ? あっ! はい!」

『↑→↓↓←↑BAX↑↑』

「えっ、あ、う、最初から難しいな」

『つべこべ言わずにやってください』

「あっ」



 画面越しに赤ん坊の泣き声が聴こえる。画面に映されているのはそれを受けて困った顔をしている母親の顏だ。



 私は2度目のチャレンジで難なくクリアすることができた。



『→→↑↑↓↓BAX↓↓反転、十回転』

「あ、間違えた!」

『ちょっと間違えないでください』



 画面越しに女の子の泣き声が聴こえる。どうやら公園で遊んでいるのに転げてしまい、膝に傷を負ってしまったようだ。



 十回転って何だよ? と思いながらも、難なくコマンド操作をこなした時にはブランコに乗ってはしゃぐ女の子の声が耳に至福をもたらした――



 何コレ、めちゃくちゃ楽しいゲームじゃん。純粋にそう思った。




 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 翌日の休日も文字違いの「トウキョーナイトクルーズ」をやることに。



 ゲーム内の私は小学生になったらしい。コマンド押しに失敗すると学校の先生に怒られれば、友達に怒られることもあった。



『↑↑↓BAXLL↑L↑L↓↓宿題』

「宿題!?」

『宿題はコマンドではAになります。今度から気をつけてください』

「この初見殺し!」



 ゲーム内の私は廊下に立たされた――



『↑↓→←←テスト→→宿題↑↑』

「よっし! これでどうだ!」

『↑↑↓↓→↓↑↓↑宿題BAXXX』

「余裕!」

『さすが。慣れてきましたね。でもあなたはゲームのやり過ぎです。一旦休憩を挟ませて頂きます』



 オペレーターがそう言うと、画面がショートした。



「ちょっと! 何なのコレ!?」



 そのコマンドを成功させることで、意識している男子から告白を受けるという展開が待っていた。彼からハグをして貰ったところでの画面ショート。



「許されるか! こんなもの!」



 私はソフトを引っこ抜いてふかふかのベッドへと投げ込んだ。



 何故こんなにもゲームで感情的になっているのだろう。



 そういえばゲームで映された画面には覚えがあるような景色ばかりが……



 時刻は18時になっていた。昼飯も食べてなかったな。確かにオペレーターに言われたとおりかもしれない。でもそれはこのゲームが楽しいからであって……



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 私は土曜日の夜は夕飯とお風呂を済ませてからはスグ寝た。そして翌日の日曜の朝早くに起きて「トウキョーナイトクルーズ」を起動させた。問題なくプレイ画面に入る。



『おかえりなさい。ゲームのやり過ぎには注意しましょう』

「はいはい。御忠告どうも」

『1日2時間までをこのゲームは提案させて頂きます』

「2時間って!? 満足できないよ!?」

『つべこべ言わない。さぁ、始めますよ』

「あれ? 私の声に反応した?」



 ゲーム内の私は高校生になっていた。その時にできた彼氏が別の女子と浮気をしており、それをみた私はその元彼へビンタをかます。



「↑↓LAX↓A↑→↓↑↓AAビンタ!」



 私のビンタは気持ち良いぐらいに命中した。



 しかし女子高生の私には衝撃的な出来事だったらしく、ゲーム内の私は自分の部屋で首吊り自殺をしようとしていた。



『↑↓→↓反転↑↑↓↓上・下同時押し!』

「ウ、ウワアアアアアアアアア!!」



 このコマンド操作だけは間違えまいと力が入った。



 そしてコマンド操作を成功すると部屋に入ってきた母親のビンタが炸裂!



 私は何故か涙を流していた。



『そろそろ2時間になります』

「え?」

『忠告した筈ですよ?』

「あ、はい。やめます」

『生きてくれて本当良かった』

「え?」

『何でもありませんよ。また』



 画面がショートした。でも今日はショートしてくれて良かったような気がした。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 それから私は仕事に励みながらも、在宅の余暇で例のゲームを少しずつ進めた。



 そうしていくうちに私の生活も何だか変化していくようだった。



 仕事でのミスはみるみるなくなり「笑顔がいいね」と上司同僚からも褒められ讃えられるように。



 私は病院の事務で働いているのだが、これまで褒められるなんて事はなかった。それだけ余暇という余暇をテレビゲームに没頭させていたということなのかな。思い知らされるようだ。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




 ゲーム内の私は私が進学した大学に進学して、私の就職した就職先に就職した。




『AL↑↓→←BA↓B↑A↑Lレポート提出!』



 私はゼミで1番の功績を残した。



『LX↓↑BA↓十回転↑→↓A←←Xバイト! 卒論!』



 私は深夜のレストランのバイトで職場の「接遇賞」を貰って給料を微増させた。


『X↓A↑↓↑→XL↓A↑←→十回転就活! 面接!』



 私は就職活動を始めてすぐにこの就職先を勝ち取った――



 私は頑張った。私の為に頑張ってきた。



 そして遂にゲームをクリアする時がやってきた。



 画面に映されたのは皺の増えた私の母親だった。たった一人でこの私を育ててきたこの世で唯一無二の存在だ――



『智子、お疲れ様』

「お母さん……このゲームは一体何だったの?」

『あなたがこのゲームをクリアする時に私はあなたの家の前にいます』

「え? これって撮影したもの? 会話できる訳じゃなくて?」

『詳しい話はまた会ってしましょう』



 私の心臓は激しく鼓動した。そっか、ドキドキするってヤツか。久しぶりだ。この感覚は。私はそんな状態になりながらも、オロオロとマンションの玄関口に出た。玄関先にはベンツの高級車が停まっていて、近くに眼鏡の青年がいた。



「笹川智子さんですか?」

「はい」

「騎士の方のナイトクルーズを創った魚住純一と言います。このたびは私どもが創ったゲームをプレイしてくれてありがとうございました!」

「え? これって何なの? 何かのドッキリ?」

「いいえ、違いますよ。ゲームのプレイに夢中になるあまり里帰りしない貴女のことを嘆いていたお母様の声を当方のSNSで拾いまして、このゲームの開発に至りました。試作品で置いてみたソフトを貴女が手にしたのはまさに運命でしたが……」

「あの、中に母がいるのです?」

「はい。いらっしゃいますよ。お話してみてはどうですか?」



 高級車の中には本当に母がいた。私と母は約十年ぶりの抱擁を交わした――



 それから魚住氏の計らいで都内の高級ホテルの一室で私は母と一夜を過ごす。



 私は謝るばかりだったが、母は「元気そうで良かった」と言うばかりだった。




 試作品だった「TOKYO KNIGHT CRUISE」はその数週間後に本発売されて大ヒットを記録した。モデルとなったのは私なのだが、その事実は私と私の母の要望を受け入れてくれて彼の会社が伏せてくれることとなった。



 私はあれからゲームというゲームはたまにしかしていない。



 私があのゲームと出会ったのは本当に私の誤字認識による偶然だったのかな?



 仕事終わり、私はネオンより高くに浮かぶ星空を眺め見た。



「事実はゲームより奇なりか」



 我ながらイイ名言を残してみたと想う。そう思わない?



∀・)読了ありがとうございます!!本作は家紋武範さまの「隕石阻止企画」また瑞月風花さまの「誤字から企画」に合わせて製作にあたったものでございます。「ICEISLAND」「DREAM OUT」主人公の魚住純一がちょい出演してますが、まぁ、気にしなくても大丈夫です(笑)本作ですが元々やろうと思ってたお話でした。我ながら楽しかったですね。テーマソングはうたたPさんの「幸せになれる隠しコマンドがあるらしい」です。良かったら聴いてみてね♪♪

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 作品情報のあらすじんとこ NIGHTがNGHITになっとるぞ
[一言] ゲームが主人公の人生を辿っていくような設定が面白かったです。 それにしてもコマンドが難しくてできる気がしません……笑。 魚住さんの粋な計らいがいいですね。 いでっちさん、ありがとうございまし…
[良い点] バッタもんのゲームつかまされたかと思ったら…………シンプルに面白い!(笑) 一番好きな台詞はコマンド入力をミスった後の「この初見殺し!」です。(笑) [一言]  ユーモアとそうじゃないもの…
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